2018 Fiscal Year Research-status Report
高精度の石材鑑定に基づく後期旧石器時代前半期における人類移動についての研究
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18K01071
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
中村 由克 明治大学, 研究・知財戦略機構, 研究推進員 (10737745)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
須藤 隆司 明治大学, 研究・知財戦略機構, 研究推進員 (10641201) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 石器石材 / 旧石器時代 / 石材鑑定 / 原産地 / 石材移動 / 石斧 / 珪質頁岩 / 透閃石岩 |
Outline of Annual Research Achievements |
石器の石材を詳細に鑑定することで、石材の生成条件等を知ることができ、それらの石材原産地を推定することが可能となる。この観点で当時の人類移動の実態を解明するために、旧石器時代に用いられた剥片石器の石材(黒曜石・珪質頁岩)と石斧の石材(透閃石岩・粗粒玄武岩・緑色凝灰岩)の検討をおこなった。珪質頁岩は、これまで各地に産地があるため、石器の素材となった原産地を推定することはむつかしいとされていた。本研究では、各地の珪質頁岩を比較し区分するための統一的な分類基準を確立するために、この石材を多く含む縄文時代の秋田県湯沢市の堀ノ内遺跡の石器を検討材料として、色調、光沢の度合い、密度(比重)、含有化石の種類と頻度などの属性をコード化して表記する記載分類法を構築する作業を行った。実体験鼻鏡などを用いた非破壊の鑑定法で、石材を高精度に区分できる分類基準を設定することができた。この記載方法に従って、秋田県下の縄手下遺跡、此掛沢Ⅱ遺跡、地蔵田遺跡などの主要な旧石器時代遺跡の石器の石材の検討を行った。 また、その他の石材では、黒曜石は原産地から河川に礫となって流下する過程で、その礫表面に現れる表面構造を観察することで石器原石の採集地を解明することの見通しが立った。石斧石材では、透閃石岩の主要産地間での岩相の違いを検討し、さらに、粗粒玄武岩、緑色凝灰岩の原産地を分別するための岩石学的な検討をおこなった。これらの研究で、各石材の原産地推定のための基礎資料を蓄積することができた。 石器の形態・型式学的研究は、岩手県上萩森遺跡等の秋田・岩手県出土の石器について検討した。 これらの研究を通して、黒曜石があまり使用されない東北~北陸地方の石器の石材移動を解明するための基礎的研究が進展した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
30年度に予定した1)石器の石材鑑定は、秋田県内の縄手下遺跡、此掛沢Ⅱ遺跡、地蔵田遺跡などの旧石器時代石器、堀ノ内遺跡などの縄文時代石器等、おもに珪質頁岩の石材について詳細鑑定を実施した。その結果、堀ノ内遺跡で頁岩から珪質頁岩、さらに玉髄質の珪質頁岩にいたる珪化作用の進展に伴う石材の変化を観察し、それらを珪化の程度から5段階に区分し、また、構成される堆積物や含有される微化石の違いなどの要素から石材を細分できることを明らかにし、従来は区分・比較が困難であった各地に産する珪質頁岩の材質研究に見通しを立てることができた。また、太平洋側地域で使用される緑色凝灰岩について、静岡県の愛鷹山麓の旧石器時代遺跡の石斧石材を調査した。 2)石材の原産地調査では、秋田県湯沢市周辺のフィールド調査を実施し、石器石材となっている原岩の分布状況や産状を確認した。また、石斧石材の粗粒玄武岩については、日本海沿岸域における主要産地のサンプルを採集した。 3)石器の形態・型式学的研究は、岩手県上萩森遺跡、板橋Ⅲ遺跡、秋田県二重鳥A遺跡等の石器について、石材と形態・型式の関係について検討した。 なお、高精度の石材鑑定の研究法については、7月に行われた「石材のつどい」研究会、8月の地学団体研究会でポスター発表し、考古学、地質学関係者等と方法論についての議論を行い、研究法の論文化に向けての準備を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
30年度の研究では、目的であった珪質頁岩の石材の特徴をコード化して統一的に記載分類する方法を編み出すことができたので、それを用いて秋田県、山形県など東北地方、富山県など北陸地方等の石器に対して鑑定、記載し、離れた地域間での石材の変化を調査してデータを増やすことに努めたい。 また、石斧石材では、透閃石岩の北陸以外の産地の究明を遺跡出土の石器の石材調査とフィールドでの地質調査を通じて進め、北陸と岩手以外の産地の解明に努めたい。さらに、これまで粗粒玄武岩については、石器石材の鑑定が十分でなく、また原産地についての情報もあまり知られていなかったので、粗粒玄武岩の石器が多い地域を中心として、それらの原産地の分布を明らかにして、個々の岩石学的な特徴を把握して、産地間の違いを解明し、旧石器時代に使われた石材原産地を究明することに取り組みたい。 さらに、石器石材の岩石学的研究と考古学的な石器の形態・型式学的研究を組み合わせた多面的な検討を行うことによって、後期旧石器時代前半期の人類移動の実態に迫る資料の掘り起しに努めたい。
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Causes of Carryover |
平成30年度では、珪質頁岩の記載分類方法の構築という課題の解明に年度後半までかかってしまい、その方法を用いた各地の石器群を鑑定記載する研究に一部着手できたものの、量的蓄積には至らなかった。また、30年度後半には、珪質頁岩の記載分類法の研究で室内作業が多かったため、出張して各地の遺物収蔵機関に出向いて石材調査をする時間が取れなかったため、予算を予定額まで使用できなかった。 令和元年度においては、繰り越し分を含めて石器の石材調査、フィールドの野外調査を行う予定である。
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Research Products
(9 results)