2018 Fiscal Year Research-status Report
環境行政決定の受容を容易化する民主主義的参加手続の法理の再構築
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18K01269
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Research Institution | Hiroshima Shudo University |
Principal Investigator |
山田 健吾 広島修道大学, 法学部, 教授 (10314907)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 行政手続 / invisibleな組織 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度においては以下の検討を行った。第一に、わが国の環境行政領域における民主主義的参加の既存の法理が、参加結果の受容のための手続的仕組みを組み込む基盤を有するか否かの整理・検討を行うこととしていた。この点については、環境影響評価法に基づく環境影響評価手続と公有水面埋立法に基づく埋立許可手続及び埋立承認手続を素材にして検討を加え、これらの手続は、行政(埋立許可・埋立承認権者)と事業者(環境影響評価書作成主・埋立権者)が、環境影響評価書作成手続から埋立竣功までの間に、環境配慮の内容を継続的段階的に見直すdeliberativeな手続構造を有していることを明らかにした。このような手続によって、手続当事者は、行政決定の内容をより受容しやすくなると思われる。とりわけ、埋立承認手続では、埋立権者としての国と承認権者としての地方公共団体が当事者として登場する。これらの主体は、私人とは異なり,「憲法的価値を有する環境」を擁護実現し、「公益に最も適するように活動する義務を有している」。このような法的地位を有する主体が当事者となるdeliberativeな手続では、一方当事者が民間事業者である手続よりも、より高い水準での工法・環境保全措置・対策を講じることが期待できることも明らかにした。 第二に、オーストラリアのシドニー、ウロンゴン及びキャンベラを訪問し、環境行政決定手続において、invisibleな組織がどのように関与しているかについて調査を行った。その結果、キャンベラにもウロンゴンにも、わが国の自治会と類似した組織があるが、強制介入でなく、ボランタリーなものであった。ニューサウスウェールズ州の環境影響評価手続では州当局とinvisibleな組織とが積極的に対話を行っていることも明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2018年度は、①わが国の環境行政領域における民主主義的参加の既存の法理が、参加結果の受容のための手続的仕組みを組み込む基盤を有するか否かを整理・分析し、②既存の法理の意義と内在的限界を検討すること、③地方自治体を訪問して、参加手続運用に係る実態調査も実施することを予定していた。実定法と判例の分析を踏まえて、①については成果を公表したが、②既存の法理の意義と限界について検討作業は行っているが、成果の公表に至っていない。また、③については、広島県の自治会や環境保護団体への調査を進めているが、当初予定していた島根県雲南市や長野県佐久市への実態調査は、相手方の日程調整がうまくいかず、行うことができなかった。 比較法研究については、調査対象につき若干の変更があったが、オーストラリア国立大学、ウロンゴン大学、ニューサウスウェールズ大学を訪問し、研究者へのヒアリングと資料収集を行った。2018年度の当初の計画では予定していなかったが、キャンベラ及びウロンゴンに在住する市民への聞き取り調査を行い、invisibleな組織の活動に係る情報を入手することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度に行った研究の整理と課題の分析を踏まえて、2019年年度は比較法研究を中心に研究を行う。オーストラリアにおいて、環境行政決定とinvisibleな組織をめぐる調査を具体的に進めていく環境が整ったため、同国を中心に比較法研究を進めていくとする。具体的には、第一に、民主主義的参加手続をめぐって先進的な議論が展開されているオーストラリア行政法及び環境法学において、環境行政過程における民主主義的参加がどのように論じられてきたかについての理論分析を行うとともに、参加結果の受容を容易化する手続的仕組みについて、どのような法制度がいかなる理論的背景のもとに整備されてきたのかを精査する。これを併せて、オーストラリア行政法及び環境法の参加手続瑕疵の是正の救済法理を解明する。第二に、オーストラリア国立大学、ウロンゴン大学、ニューサウスウェールズ大学の研究者、オーストラリアで環境保護にかかわる草の根運動やNPOに携わっている市民から聞き取りを行い、参加手続の運用実態、環境課題の解決に取り組むinvisibleな組織が社会・地域にいかなる影響を及ぼしているのか、民主主義的参加手続にいかなる関与を行っているのか、参加結果の受容の容易化にどのような影響を与えているかについて実態調査を行う。オーストラリア国立大学に所属する、東アジアのinvisibleな組織を研究している研究者にもインタビューを実施し、東アジアのinvisibleな組織を分析し、これを通じて、わが国のinvisibleな組織の特色を析出することを試みる。 以上の研究に加え、2018年度において実施できなかった地方自治体への聞き取りを行い、わが国における参加手続運用に係る実態調査を行う。
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Causes of Carryover |
2018年度は、わが国の環境行政領域における民主主義的参加の既存の法理が、参加結果の受容のための手続的仕組みを組み込む基盤を有するか否かを整理・分析し、既存の法理の意義と内在的限界を検討することに加え、地方自治体を訪問して、参加手続運用に係る実態調査も実施することを予定していた。このうち、地方自治体への訪問については、当初、島根県雲南市や長野県佐久市などへの実態調査を予定していが、相手方との日程調整がうまくいかず行えなかったため、次年度使用額が生じてしまった。2019年度に地方自治体への実態調査を行う予定である。
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Research Products
(1 results)