2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K01292
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
嵩 さやか 東北大学, 法学研究科, 教授 (00302646)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 生活困窮者自立支援 / 相談支援 / 社会的排除 / 持続可能性 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、多様な事業が組み合わされている生活困窮者自立支援制度や介護保険の地域支援事業を中心に、事業の法的仕組みや行政上の規律等について検討を行った。生活困窮者自立支援制度の自立相談支援事業では、法的な外延が必ずしも明瞭ではない対象者に対して、事実行為の連鎖により相談支援が展開され、法的把握が極めて難しい仕組みとなっていることが明らかになった。他方で、介護保険の地域支援事業では、保険給付(予防給付)から移された訪問介護・通所介護のように、保険給付との類似性が見られる仕組みもあり、事業の法的組み立てにおける多様性が見いだされた。行政行為に分節化できない仕組みを持つ事業においては、いかなる法的組み立てで当事者の権利・利益を確保することができるのかという課題が明らかになった。損害賠償といったミクロの視点とともに、事業全体の統制というマクロの視点の重要性についても検討を行い、両視点の限界を相互に補い合うことの可能性について検討を行った。 また、今年度は、社会保障の事業化を要請する背景としての社会的排除の状況や高齢者の貧困についても検討を行った。とりわけ、高齢者の貧困に関しては、必要な介護や医療へのアクセスを保障するため、医療機関等も含めた多様な支援のチャネルの必要性が認められ、社会保険などの「大きな制度」ではない、より身近な仕組みを提供する基盤として、各種事業の意義が見いだされた。さらに、世代間衡平の観点から社会保障制度をより持続可能な仕組みとするために、国や地方自治体のみが支える仕組みから、地域の多様な主体を取り込んだ仕組みへの移行の意義が見いだされ、そうした多様な主体の連携を推進する仕組みとしての事業の機能にも着目した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、当初の予定通り、社会保障法で進展している各種の事業の具体的な仕組みを分析することができた。特に事業化が顕著である生活困窮者自立支援制度について具体的にその仕組みを分析したとともに、当該仕組みが抱える課題についても明らかにすることができた。また、社会福祉の領域において、給付本体の仕組みとともに近年重要性を増している事業の例として、介護保険の地域支援事業をめぐる政策的動きに関しても検討することができた。 また、単に社会保障法制における各種事業の仕組みを解明するだけでなく、事業化が求められる社会的背景についても視野を広げることができた。特に、社会的排除や貧困の深刻化といった、従来型の社会保険制度では対応できない問題が認識されるようになったことや、社会保険といった大きな仕組みのみでは持続性が揺らいでいる社会保障において、多様な関係機関の連携の重要性が注目され、それとともに事業化が推進してきたことが明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度には、2018年度に把握した具体的事業について、引き続き文献・資料を参照しながら、従来の権利義務アプローチの有効性と限界を検討する。特に2018年度におこなった研究で明らかになったように、生活困窮者自立支援制度の法的分析を中心に検討し、学会報告を行う予定である。また、こうした検討は、当然のことながら行政法や民法の研究への参照を必要とするため、関係する法領域の文献を渉猟しながら実施する予定である。 また、本研究が比較対象とするフランスに関する研究も、2019年度には力を入れる。相談支援などの検討において参考となる契約化(Contractualisation)の動き-対象者と行政とが契約を締結して社会参入のための取組みを行う、国と社会保険金庫が契約を締結して目標管理を行う等-を中心に、文献調査・現地調査等を踏まえながら実施する予定である。 2020年度には、本研究の総括として、さらに文献・資料を渉猟しながら、フランス法への参照も行いつつ、権利義務アプローチによる分析が困難であった「事業」について、新たなアプローチを模索する。とりわけ、事業実施主体とそれによる支援を受ける者との関係が、従来型の行政行為を介した垂直的な関係と相違する点に着目しながら法的規律の方法を検討する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは、2018年度に使用しきれない端数が残ったためである。 次年度はこの端数を含め、次年度配分額とともに、主に物品費・旅費に使用する予定である。
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Research Products
(2 results)