2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K01337
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
大久保 邦彦 大阪大学, 国際公共政策研究科, 教授 (60258118)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 時効 / 時効障害 / 更新 / 完成猶予 / 民法 / ドイツ法 / オーストリア法 / スイス法 |
Outline of Annual Research Achievements |
時効障害法について、平成30年度は、本研究のほか『新注釈民法』の時効障害の項目を執筆するため、(1)平成29年債権法改正に関する法制審議会の議論をまとめ、(2)改正前の判例の立場を客観的に記述し、(3)平成29年債権法改正で規律が変更される点を確認し、(4)民法改正により生ずる解釈上の疑義を挙げ、(5)民法改正に伴い改正が必要となると思われる特別法の規律を指摘するという作業を行い、(3)(4)(5)を論文にまとめた。そのほか、近いうちに成立が見込まれる民事執行法改正に関する法制審議会の議論をフォローした。以下では(5)の一部についてのみ述べる。 改正前民法は、①時効の完成が妨げられるという効力と、②それまでに進行した時効が全く効力を失い、新たな時効が進行を始めるという効力を、いずれも「中断」という同一の用語で表現しており、このことが時効制度を難解にしている一因となっていたため、改正法は、①中断事由によって時効の完成が妨げられるという効力を「時効の完成猶予」、②新たな時効が進行を始めるという効力を「時効の更新」という表現を用いて再構成した。このように効力面では「時効の中断」は「時効の完成猶予」と「時効の更新」とに二元化された。その結果、法律の条文も、たとえば手形法71条のように、時効の中断を時効の完成猶予・更新に置き換える改正がなされた。しかし、学説上は、「中断」が「更新」に、「停止」が「完成猶予」に変更されたという説明がしばしば見られる。 他方で、改正前は、民事手続は時効中断事由とされていたが、改正後は、民事手続の申立ては時効完成猶予事由、民事手続の終了は時効更新事由というように二元化された。しかし、仲裁法29条2項はこのことを正しく理解せずに、「時効中断」を「時効の完成猶予及び更新」に単純に置き換えたために立法の過誤を犯している。仲裁法の速やかな改正が望まれる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定と異なり、初年度に、時効障害制度について、改正の前後で変更される民法の規律、民法改正により生ずる解釈上の疑義、民法改正に伴い改正が必要となると思われる特別法の規律を、可能な限り網羅的に指摘することによって、今後の研究と実務の礎石とすることを目的とする論文を公表できた点は評価できる。 他方で、時効障害事由の大半は民事手続法上の事実であるところ、民事手続法に関する多くの文献を購入したため、洋書を十分に収集できなかったこと、民事手続法の検討に予想以上の時間がかかったこと、民事執行法が改正されること等により、外国法の研究がほとんど進まなかった点は遺憾とするところである。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度はドイツに渡航し、文献を収集するとともに、ドイツ法・オーストリア法・スイス法の検討を進める予定である。特に、2巻で1686頁に及ぶスイスの研究者であるKarlSpiroの大著, "Die Begrenzung privater Rechte durch Verjaehrungs-, Verwirkungs- und Fatalfristen"に取り組む。
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