2020 Fiscal Year Research-status Report
企業間取引におけるフォーマル・ルールとインフォーマル・ルール
Project/Area Number |
18K01338
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
清水 真希子 大阪大学, 法学研究科, 教授 (50302641)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 民事法 / ソフトロー / ハードロー / インフォーマルルール / プリンシプル / ベストプラクティス |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、本研究の研究成果として「プリンシプル・ベースの規制について――金融規制を対象として」(法曹時報72巻8号1頁)を公表した。 プリンシプル・ベースの規制とは、一般的・包括的な形で規制目的や達成すべき成果を示し、被規制者の創意工夫により各自の状況に見合った形で遵守させることを予定した規制方式である。プリンシプルの趣旨・目的やその適用について共通理解を構築するために、規制者と被規制者の間で密度の濃い対話が継続的に行われることが想定されている。これに対してルール・ベースの規制とは、遵守すべき事項を詳細に定義するという伝統的な規制方式である。ルール・ベースの規制は、遵守すべき最低水準を明確に定義する形で規定することになりがちで、柔軟性を欠き、被規制者側もその詳細なルールの遵守に拘泥することになりがちであるという問題点があることから、プリンシプル・ベースの規制が志向されるという近年の潮流がある。本研究に引き付けて考えれば、プリンシプル・ベースの規制とはよりインフォーマルな、ルール・ベースの規制とはよりフォーマルな規制であるといえる。 金融規制の実務では、かねてより、プリンシプル・ベースの規制とルール・ベースの規制をどのように用いるかについて、世界的に議論が行われてきたところである。プリンシプル・ベースの規制は、近年、金融規制に限らずその他の様々な領域において用いられるようになってきている。ところが、わが国私法分野では、この規制方式についての理論的な理解が十分に進んでいない。そこで上記拙稿は、金融規制に関するイギリスの理論的な先行研究と近年のわが国金融規制実務の展開を参照して、プリンシプル・ベースの規制についての理論的な理解を深めることを意図したものであり、そのことを通じてインフォーマル・ルール、フォーマル・ルールの検討を深めようとしたものである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年度は、新型コロナウイルス感染症の流行に際し、本学法学部の教育を損ねることなく推進していくための責任ある立場に就くことになり、学内行政に忙殺され、全期間にわたり、ほとんど全くといっていいほど研究のための時間を取ることができなかった。前記の論文は、2019年度中に進めていた作業をもとにかろうじてまとめることができたものである。 本研究は、私法の観点から、フォーマル・ルールとインフォーマル・ルールがどのように組み合わさって社会秩序を作り出しているかについて検討しようとするものである。しかし、すでに2019年度から検討していたように、そもそも、私法という観点において、フォーマル・ルールとインフォーマル・ルールをどのように把握するかという点からして問題がある。2020年度はこの点についての思考を深め、まだ論文として公表はできていないが、以前よりもより良い見通しを得ることができた。 本研究は研究計画の段階では、フォーマル・ルールとインフォーマル・ルールの社会秩序における意義について、企業間取引を題材として考える予定であったが、この点についても既に過年度に再考が必要としていたところである。2020年度に検討を深めた結果として、「ガバナンス」をキーワードとして考え、私法におけるその具体的な意味を検討するのが妥当であると考えるに至った。 現在の研究の進捗状況は冒頭に述べた理由でやむを得ず遅れているが、わずかながらも2020年度に進めることができた検討を踏まえて、今後の研究を進めていきたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
2020年度までに進めてきた検討に基づき、①フォーマル・ルールとインフォーマル・ルールをどのように捉えるかについての理論的な検討と、②現在、私法分野において生じている規制手法に関する課題をまとめ、③ガバナンスが大きな問題となっている私法関連分野を素材として、実際の規律体系がどのように構築されているかについて調査を進める。これらの検討を踏まえて、最終的には、④フォーマル・ルールやインフォーマル・ルールのあり方の記述的な説明や規範的な提言を行うのが目標である。 ①②と③は、相互に密接に関連するので、順序だててというよりは、同時並行で進めていく必要があると考えている。③については、「ガバナンス」をキーワードとして具体的な素材を選択して検討を進めたい。2021年度は、①②③の点について、研究分担者として参加している別の研究とも関連付けながら進めていく予定である。
|
Causes of Carryover |
2020年度は新型コロナウイルス感染症への対応について責任のある立場に就いていたため、全期間にわたり学内行政に忙殺され、ほとんど全くといっていいほど研究時間をとることができなかった。 2021年度は2020年度に生じた遅延を取り戻すべく、文献やデータベースを購入するなどして、情報収集を積極的に進める。ただし、出張は社会情勢上困難であることが予想されるため、可能となるまではオンライン会議等で代替する。
|
Research Products
(1 results)