2018 Fiscal Year Research-status Report
国際倒産の諸問題ーアジア太平洋諸国における海運会社の倒産を契機として
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18K01376
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
金 春 同志社大学, 法学部, 教授 (80362557)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 承認援助 / 倒産 / 仲裁 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度では、研究計画のうち、二つの具体的な問題について研究し、論文を公表することができた。一つ目は、海運会社が倒産した場合、特に再建手続を開始したとき、船が従来通り運航を続けることは債務者の再建を握るカギとなる。ところが債務者が所有又は使用する船が海外の港に寄港する場合、債権者が船を差し押さえるケースがしばしばある。これは、海外資産の保全に関わる問題であり、従来、外国倒産手続の承認援助と絡んで論じられることが多かったが、和解や少額債権の弁済等その他の手法の検討も必要である。また、第一中央汽船や韓進海運会社の再生事件ではUNCITRALモデル法を採用していない国においても承認援助決定を受けており、そのような国においては承認援助のためのいかなる制度が用意されているかを研究する必要がある。これらの問題の裏側には一国における外国倒産手続及び再建計画のの承認援助の問題が関わる。この問題については、中国の権威のある法律専門雑誌に、論文(「外国倒産手続における承認援助」中国政法論壇2019年第5号)公表することができた。 二つ目は、海運会社が倒産した場合において、債務者の財産をめぐって外国で訴訟、仲裁手続が係属しているときに、その手続は国内の倒産手続との関係で中止されるか、その後の継続有無の問題が重要である。この問題は、仲裁合意や国際管轄合意が倒産手続との関係でそもそも効力を有するのかという一般的な問題とも密接に関連している点で、日本の学説上見解が種々に分かれている。国際倒産の場面では、準拠法の問題も絡む点が複雑性を増している。第一中央汽船の再生事件でこの点が問題となっており、これをも素材として用いる。この問題については、中国の権威のある法律専門雑誌に、論文(「倒産手続における仲裁ー実体と手続」《当代法学》2018年第5号)を公表することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、近年急増するアジア太平洋地域における海運会社の倒産事例を契機として、国際倒産におけるいくつかの重要な論点について考察するものである。具体的に、本研究では、日本の第一中央汽船、韓国の韓進海運会社及び中国の夏之遠海運会社の再生事件等近年の著名な海運会社の倒産事件及びそれらと関連するオーストラリアの判例を多数用いて、①海外資産の保全、②係属中の外国訴訟・仲裁の扱い、③倒産解除条項の効力、④海外資産の差押えと不法行為・不当利得、⑤国境を超えるグループ会社倒産の実体的併合、⑥承認の要件(相互主義)、援助の立法モデル等につき掘り下げた研究を行うものである。 このうち、①と⑥、②については、それぞれ2018年度において二本の論文を公表することができた。また、研究テーマと関連する重要な国際会議の事務局を勤めたり、報告者として参加した。現在のところ、おおむね当初の研究計画とおり進んでいる状況である。今後は、残りの四つの問題について研究し、英語、日本語又は中国語での論文を公表する計画である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の次の重要な課題は、倒産解除特約について研究することである(上記③)。海運会社が倒産したときに、貨物運送契約や保険契約、船舶賃貸借契約の相手方である海外の当事者がしばしば倒産解除特約に基づいて契約の解除を求めるケースがある。この場合、仮に契約が企業の再建にとって必要不可欠なものであるときには、管財人、DIPは契約の履行を求めるのが通常であるが、そのために同解除条項の無効を主張することが多い。倒産解除条項の効力が問われる問題であり、準拠法の問題とも密接に関連しており、日本では最近重要な判例がある。2019年度は、主にこの問題について研究し、日本語の論文を公表する計画である。なお、日本では少なくとも再建型手続において同条項の効力を否定するのが多数説・判例であるが、オーストラリアでは、同様の立場を明文化した法改正が2017年9月に実現されたため、その改正の内容について紹介する。また、イギリスでも同問題について改正の動向が見られるため、論文ではイギリスと法についても紹介する予定である。
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