2021 Fiscal Year Research-status Report
国際倒産の諸問題ーアジア太平洋諸国における海運会社の倒産を契機として
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18K01376
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
金 春 同志社大学, 法学部, 教授 (80362557)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 倒産法 / オーストラリア / 私的整理 / 実体的併合 / 倒産解除条項 / 経営者責任 / 個人倒産 / 国際倒産 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、オーストラリアメルボルン大学のStacey STEELE准教授と長年の共同研究を経て弘文堂にて『オーストラリア倒産法』(2022年1月)を出版させていただきました。本書は、オーストラリア倒産法の全体像について紹介したのみならず、近年のオーストラリアの倒産法改正でクローズアップされており、日本の解釈論・立法論上も重要な問題となっている争点事項に分析・検討したものであります。 本書は、オーストラリア倒産法の全体像について簡潔に触れた後、オーストラリアにおける個々の倒産手続において特に問題とされている具体的ないくつかの争点・事項、すなわち、再建型企業倒産手続として多用されている任意管理手続における裁判所の役割、小規模会社再建手続の導入、個人倒産手続と免責観察期間、管財人等の倒産実務家の規制、その報酬算定、再建型企業倒産手続との関係における倒産解除条項の制限、会社取締役の倒産取引阻止義務、グループ企業倒産の実体的併合などについて、分析・検討しています。本書の中で、触れた争点・事項の中には、オーストラリア倒産法に特有のものであろうと思われるものもないではないが、法体系の違いを前提にして、日本の倒産手続のあり方を検討するうえで、多いに参考になると思います。 この中でも、倒産解除条項の制限の問題は、国際倒産領域でも重要な課題となっております。すなわち、本書の第7章では、オーストラリアにおいて再建型倒産手続において倒産解除条項の効力の制限が明文かされた立法経緯、内容、解釈、実務において詳しく紹介、分析、日本の解釈論上、立法上同様の問題を考える上で参考となるものを見つけることを目的とするものであります。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナ感染症の流行などにより海外渡航が厳しく制限されているあめ、当初の研究計画書とまったく同じのテーマについて論文発表は多くはなかったものの、比較法対象を日本とオーストラリアに絞って、かつ国際倒産に関する問題をも本の中の章に取り入れる形で研究を成し遂げ、最終的に『オーストラリア倒産法』(弘文堂・2021年1月)の著書を出版できたのはとてもよかったと思います。 同本の中で、触れた争点・事項の中には、オーストラリア倒産法に特有のものであろうと思われるものもないではないが、法体系の違いを前提にして、日本の倒産手続のあり方を検討するうえで、多いに参考になると思います。 本書の第6章は、オーストラリアにおいて2017年改正時に導入された再建型企業倒産手続における倒産解除特約の効力制限の制度について任意管理手続を中心に考察し、2020年にオーストラリアより小規模ではあるが同様の制限が実現されたイギリス法についても若干の考察を行いました。日本では、倒産手続上何らかの形で倒産解除特約の効力を制限すべきであるとの見解が多数であるが、その制限の範囲及び具体的な根拠については、最高裁判決 の射程に対する理解も含めて様々な見解があり、オーストラリアにおける倒産解除特約の効力制限の立法趣旨、制限のあり方等は日本法の解釈論・立法論を考える上で重要な意義を有しています。この問題は、契約当事者の一方が外国当事者である場合、準拠法などの問題も絡んでいるので、国際倒産の分野でも重要であります。
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Strategy for Future Research Activity |
私は、1997年に来日して以来一貫して倒産制度の研究を行ってきましたが、その中でも日本法と中国法の比較に重点を置いてきました。母国である中国では近年倒産制度の整備が目覚ましく、まず大規模な倒産事件の増加の中、裁判所も実務家も多くの裁判や実務経験をつんできており、諸外国から大きく注目されてきています。 その中国では、2022年に新倒産法が公布される見込みであります。2006年に現行破産法が導入されてから実に15年以上ぶりの大改正となります。改正の課題の中心をなすのは、倒産法の手続問題と実体的問題をめぐる現代的課題であります。 2022年度からは、公布される見込みである中国新倒産法やその改正にいたる過程までの議論を素材として、倒産法の手続問題と実体問題をめぐる現代的課題をめぐる研究を行い、日中相互の倒産法に示唆となるものを見つけることを目的とするものであります。研究の中心をなす課題としては、外国倒産手続の承認・援助をはじめとした国際倒産領域に関する問題などが含まれています。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症の流行のため渡航制限が厳しく、当初の研究計画書で予定されていた海外渡航や翻訳費用についての支出等が十分に行われなかったためであります。 2022年度は、新型コロナ感染症ガ沈静化しつつあり、渡航制限もいろいろ解除されているため、7月と8月に出国して海外で研究を行い、資料の翻訳なども十分に行うつもりでございます。
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[Book] オーストラリア倒産法2022
Author(s)
金春Chun JIN、Stacey STEELE
Total Pages
328
Publisher
弘文堂
ISBN
978-4-335-35893-7