2018 Fiscal Year Research-status Report
戦後ソ連の講和問題と1950年代の国際政治―極東情勢と欧州情勢の連関
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18K01485
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Research Institution | Tamagawa University |
Principal Investigator |
清水 聡 玉川大学, 経営学部, 非常勤講師 (50722625)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
羽場 久美子 青山学院大学, 国際政治経済学部, 教授 (70147007)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 冷戦史 / 国際政治史 / 講和問題 / 独ソ関係 / 戦後日本外交史 / ソ連外交 / 極東情勢 / 欧州情勢 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、以下の3点を実施した。 (1)研究組織を確立させ、各自の研究領域の範囲を明確化させたこと。この点については、清水(研究代表者)がドイツを中心とした欧州情勢と極東情勢の連関について、ソ連の講和問題を中心課題として研究を進めること、羽場(研究分担者)が1950年代の国際政治において、極東情勢と欧州情勢の連関の構造をどのように特徴づけることができるのか、その輪郭について分析を進めること、さらに、杜(研究協力者)が極東情勢と欧州情勢との連関の事例として、中国の対外政策の研究を進めることについて、それぞれの研究領域の範囲を明確化させた。 (2)各自が課題とする研究領域について、情報収集と史料調査を実施したこと。清水(研究代表者)はドイツ連邦文書館(ベルリン)において、ドイツ民主共和国(東ドイツ)とソ連との対外政策の調整過程に関わる史料を発見し、分析を進めた。杜(研究協力者)は国家図書館(北京)と上海市図書館(上海)において、1950年代の中国の対外政策の実態(とくにサンフランシスコ講和会議とソ連の対日講和案に対して、中国がどのように対応したのか)を解明することを目的として、史料調査を実施した。 (3)極東・欧州関係史研究会の開催。研究会において、5年間の研究計画、研究目的と研究方法について意見調整を行った。その上で、「研究目的と研究方法:『戦後ソ連の講和問題と1950年代の国際政治―極東情勢と欧州情勢の連関』」(2018年8月5日、報告者:清水)と、「1950年代初期の中国の対外政策とソ連の対日講和案」(2019年3月18日、報告者:杜)について、研究報告が実施された。討議の際に、羽場(研究分担者)から、1950年代の国際政治の構造について、多様な発展の経路があった可能性が指摘され、それにより研究の位置づけについて再考する機会が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
応募の段階においては、初年度の研究計画は、ドイツ連邦文書館での史料収集と史料分析を予定していた。この当初の計画は、おおむね達成された。その上、初年度は、研究課題が採択された後、研究組織の拡充を目指し、羽場(研究分担者)と杜(研究協力者)の参加を得ることができた。この結果、戦後ソ連の講和問題について、極東情勢(日本)と欧州情勢(ドイツ)との関係について分析を試みることを目指していた応募段階の研究計画は、(1)1950年代の国際政治の趨勢に関する研究(担当:羽場)、ならびに、(2)1950年代の中国の対外政策過程に関する研究(担当:杜)に、立体的に支えられることとなった。それにより、精緻な研究結果を得られる環境が整えられた。 また、情報収集と史料調査の過程において、清水(研究代表者)は、ソ連によるドイツの中立的統一提案(スターリン・ノート)(1952年)に関する(1)政策決定過程(ソ連)、さらには、(2)スターリン・ノート公表後の世論(とくにドイツ)の動向について、それぞれ関連する史料を得た。また杜(研究協力者)は、史料調査の過程で、スターリンと毛沢東との会談において、スターリンが対日和約問題と旅順のソ連軍撤退問題について言及したことを示す史料(1950年1月22日)を得た。 これらの情報収集と史料調査の成果は、極東・欧州関係史研究会において報告され、研究の進展が目指された。とくに研究会における討議においては、旅順のソ連軍撤退問題(1950年)、中ソ同盟(中ソ友好同盟相互援助条約、1950年)、朝鮮戦争の勃発(1950年)、サンフランシスコ講和会議と対日ソ連講和案(1951年)、スターリン・ノート(1952年)、日ソ共同宣言(1956年)、ハンガリー動乱(1956年)を中心に、相互の出来事の関連について討議され、次年度以降の研究の方向が具体的に示された。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究については、以下の5点が推進方策である。(1)各自の研究領域に関わる情報収集と史料収集を継続すること。清水(研究代表者)は、ドイツ連邦文書館と、外務省外交史料館での史料収集を進め、極東情勢(日本)と欧州情勢(ドイツ)の動向を把握し、ソ連の講和問題の実態について解明を目指す。羽場(研究分担者)は、1950年代の国際政治の趨勢について、アメリカの動向も含めて情報収集を進めることにより、ソ連外交の実態を際立たせることを試みる。杜(研究協力者)は、中国の対外政策過程の構造を解明することを目的として、情報収集と史料収集を継続する。 (2)研究の精緻化。1950年代の国際政治における極東情勢と欧州情勢の連関に関する研究課題は、引き続き精緻な分析が求められる。研究の推進方策としては、極東情勢と欧州情勢の展開を時系列に沿って入念に比較検討する作業が求められ、この作業を引き続き中心課題の一つに据える。 (3)新たな研究分野に取り組むこと。研究組織のなかでは、一年目の研究活動を通じて、日ソ共同宣言(1956年)、ならびに、ハンガリー動乱(1956年)に関する研究課題に、新たに取り組む必要があるとする意見があった。この研究分野(1956年の冷戦構造の展開)は、極東情勢と欧州情勢の連関に関わる重要な課題である。今後、この研究分野に取り組む予定である。 (4)極東・欧州関係史研究会の開催。研究会の開催により、一年目は新たな複数の知見が得られた。引き続き定期的に研究会を開催し、各自の研究成果について、討議を継続する。 (5)研究成果の公表。研究成果を、研究報告(研究会、学会における報告)、研究論文(学会誌、紀要)として公表する。十分な情報収集と史料収集、ならびに実証研究として確立した分析がなされた研究成果については、それを順番に発表する。
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Causes of Carryover |
当初、研究会の開催のために会場を確保する予定であった(会場費の支出を想定していた)。しかし、青山学院大学(羽場研究室)において研究会を開催することへと変更となった。そのため、会場費が不要となり、残額が生じた。 次年度使用額については、情報収集と史料収集の一部として活用する。とくに、1956年の冷戦構造の展開について検討するために、今年度は、調査活動に重点を置く。
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