2019 Fiscal Year Research-status Report
Establishment of the Convention Relating to International Exhibition (1928) and the International Exhibitions Bureau (1931)
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18K01497
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐野 真由子 京都大学, 教育学研究科, 教授 (50410519)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 万国博覧会 / 世界 / 植民地 / 国際制度 / 文化多様性 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究2年度目にあたる今年度の活動は、大きく二つの角度から説明できる。 一つは、初年度にすでに大きく進展した資料収集の成果をあらためて徹底的に分析し、万博史に関する新たな見方を打ち出す約6万6千字の論文(「万国博覧会という、世界を把握する方法」)にまとめ終えたことである。本研究の申請時、万博が公的国際制度として成立した際の「外交交渉や識者の議論は、当時における過去の万国博への評価と、以降の万博のあり方、ひいては国際社会の展望を直截に映し出していることが想定される」と述べた。本論文はその仮定を裏付けただけでなく、本研究の焦点である1930年前後の制度成立経緯を中心としつつも、万博の発祥から現在までの170年にわたり、広範な人類世界の変貌を万博の歩みを通して捉えることができるという、一つの新たな研究枠組みを提示するものとなった。 いま一つは、報告者が主宰する学際的共同研究「万国博覧会と人間の歴史」の活発化であり、具体的には、2019年6月、8月、11月、12月、2020年3月に、各2日間の研究会合を実施した(12月は東京、それ以外は京都)。報告者の持つ上記研究視角を軸にこの共同研究の推進することを通じ、上に述べた自身の研究成果を常時発信し、多様な視点をもった研究者との議論に供するとともに、翻って「世界を把握する方法」としての自身の万博史研究を厚くすることができた。毎回30~40人程度になる出席者には、大学所属の研究者のほか、博覧会の現場運営に携わる官民の専門家を含み、研究ネットワークも大きく発展しつつある。なお、報告者の編纂によって共同研究の成果論集(仮題『万博学』)を2020年度に出版すべく準備中であり、上記論文はその巻頭論文となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度における資料調査の進展に恩恵を受け、当初計画には最終年度に予定していた、新視点による万博史の総合的な分析に着手し、十分に整理のうえ発信できる段階に至ったことが、自己評価を(1)とする主な理由である。年度末に予定していたイギリスでの最終的な裏付け調査は、新型コロナウイルスの感染拡大により中止せざるをえなかったが、それを今後の課題に残したうえでも、なお大きな進展と言いうる。 また、それ自体が本研究の対象でもあり、前年度に訪問して集中的な資料収集も行った国際機関BIE(博覧会国際事務局)の紀要に招待寄稿し、日本における万博史研究の深度を国際的に示しえたことも、研究開始時の予想を超える重要な成果であった。 加えて、2025年大阪・関西万博に向けた現実社会の動きのなかで、経済産業省の万博計画具体化検討ワーキンググループ委員を務めたことを通じ、本研究の考察に対しても、通常の研究活動だけでは叶わない知見を得、またネットワークを大きく広げることができたことを挙げておきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
ここまでの研究の進展を受け、最終年度においては、以下の3点を中心に進める方針である。 1)研究成果を積極的に学際的な議論に供することで、ここまでに打ち出した「万国博覧会という、世界を把握する方法」という研究視角をさらに磨き、本研究のまとめに向かう。とくに、2020年12月に2日間のシンポジウムを実施予定である。 2)上記研究視角の次世代への継承という観点に立ち、これを「万博学」と称して広く共有できる枠組みとすることをめざす。上欄にも記した共同研究成果論集の刊行はその一環である。 3)既述の論文にまとめたここまでの研究成果のなかには、個別に分割しなおし、次の段階で深化させるべきテーマが複数包含されており、本研究のまとめという意味をもって、そのような新たな展開への準備を開始する。具体的なテーマ例としては、「第二次世界大戦直後の『万博界』」「植民地独立ラッシュのなかの1970年大阪万博」「冷戦と万博――1967年モントリオール博から1992年セビリア万博まで」を挙げておきたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた第一の理由は、今年度までの大幅な研究進展に伴い、研究最終年度となる2020年度に、成果を発信しつつ学際的な議論を深め、研究ネットワークのさらなる充実化を図るためのシンポジウム開催を計画するに至ったことから、その費用を考慮し、できる限りの節約を図ったことである。今年度は主として前年度までに収集した資料の徹底的な分析に注力することで、研究内容を低減するよりはむしろ深化させつつ、使用額の節約が可能となった。 第二に、年度末に予定していたイギリスへの調査出張が新型コロナウイルスの蔓延により中止になったことが理由である。現時点で次年度に新たな出張を計画することは困難と考えているが、この残額は、上記シンポジウム開催予算の不足分に充て、役立てる予定である。 そのほか、資料収集や研究打ち合わせのための国内交通費、シンポジウム以外の小規模研究会実施のための会場借料、関係書籍購入費、英文での成果発表の際の校閲料等を支出対象として計画している。
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