2018 Fiscal Year Research-status Report
近現代日本における財産権の設定と経済活動との関係性に関する実証的研究
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18K01730
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
小林 延人 首都大学東京, 経営学研究科, 准教授 (80723254)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 財産権 / 経済史 / インセンティブ / 所有権 / 債権 / 知的財産権 / 社員権 / 日本近代史 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年6月23日の政治経済学・経済史学会春季総合研究会において共通論題「財産権と経済活動」を開催した。研究代表者の小林延人が組織者・報告者を務めたほか、連携研究者の斎藤邦明(和光大学)・西村成弘(関西大学)・結城武延(東北大学)が報告者を、同じく連携研究者の有本寛(一橋大学)・田中亘(東京大学)がコメンテーターを務めた。また、連携研究者の今泉飛鳥(埼玉大学)が司会を務めた。 上記の学会報告のほか、①2018年4月7日、②2018年12月23日、③2019年3月22日の三度研究会を開催した。③では、科研費のメンバーのほか、伊丹一浩(茨城大学)を新たに加えて、さらに研究・協議を重ねた。 本研究は、所有権・債権・知的財産権・社員権を包括する巨大な概念として財産権を定義している。本年度の大きな成果は、日本近代史上それらの権利がどのように設定されてきたか実証的に論じるとともに、経済学的なインセンティブ論を再検討する必要性が研究代表者・連携研究者の間で共有されたことにある。フランス農業史を専門とする伊丹が加わることで、日本の個別的な現象がさらに相対化されることを期待する。 個別実証的には、研究代表者は債権の国家による設定という観点から、明治初期の「藩債処分」を扱った。その成果は、上記の共通論題のほか、2018年5月27日の社会経済史学会第87回全国大会にて報告された。なお、同報告はシンポジウム「大名貸から銀行へ―大坂豪商・加島屋久右衛門の近世・近代」の一環であり、科学研究費補助金・基盤研究(B)「両替商金融から近代金融へ:新史料に基づく加島屋久右衛門と鴻池屋善右衛門の比較研究」(2016年度-2018年度、研究代表者:高槻泰郎)と成果を共有する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の申請時に予定していた2018年6月23日の政治経済学・経済史学会春季総合研究会での共通論題報告を終えて、出席していた学会員からは早期の活字化を望む声が多くあがった。研究代表者・連携研究者の個別的な研究も順調に進展しているが、法学・歴史学・経済学共通の議論のプラットフォームを構築するには至っておらず、実証の理論化に際しては法学・経済学それぞれの分野に伝わるような研究成果の再定義が必要と判断した。 そのため、性急に研究成果を発出するのではなく、十分に議論を尽くしたうえで論文集として研究成果を公開することが妥当と見ている。したがって、研究成果の公開は当初の予定通り2020年度中に設定している。 個別的研究としては、研究代表者が明治初期の「藩債処分」を事例に、債権をどのように国家が設定し、それが実際の商家経営にどのような影響を与えたか分析を行った。明治政府は旧大名家の債務(=藩債)の一部を、新旧公債証書に切り換える形で保証したが、これを財産権の国家による保護と認定し、商家経営に与えた影響を考察した。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、債権に関わる分野で藩債処分の過程について実証研究を行う。具体的には、神戸大学経済経営研究所所蔵の『廣岡家文書』の分析を通じて、藩債処分が両替商・加島屋久右衛門家に与えた影響を考察する。 本研究の性質上、個別実証的な発見を重ねるのみでなく、その解釈を法学・経済学それぞれの方法論から理解可能なものとすることが求められる。2019年度も、法学・経済学を専門とする連携研究者と研究会を開催するほか、学会等で報告を行う。それぞれの学問領域を横断する形で、財産権の設定が実際の経済活動にどのような影響を与えるか分析するという課題を明示的に追求する。 また本研究は、研究代表者・連携研究者によって論文集を刊行する形で研究成果を公表することを目指している。すでに公表の方法については、特定の出版社と数度打ち合わせを行っている。2019年度の刊行助成に応募を行い、順調に採択された場合、2020年8月までに書籍を刊行する。 刊行後は、本書の書評会を開催し、様々な分野における研究者の批判を乞う。具体的には、政治経済学・経済史学会東北部会などを想定している。
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Research Products
(3 results)