2019 Fiscal Year Research-status Report
近現代日本における財産権の設定と経済活動との関係性に関する実証的研究
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18K01730
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
小林 延人 首都大学東京, 経営学研究科, 准教授 (80723254)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 財産権 / 経済史 / 日本近代史 / 日本経済史 / 債権 / 藩債処分 / 大名貸 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者ならびに共同研究者は、債権・社員権・物権・知的財産権のそれぞれの分野において、経済史の観点から実証的な分析を進めてきた。その成果はすでに、政治経済学・経済史学会春季総合研究会の共通論題「財産権と経済活動」(2018年6月23日)などにおいて公表された。 引き続き、本年度は研究会を開催し、その報告に対する批判を踏まえて議論するとともに、各自が原稿執筆を行った。論文集は、東京大学出版会から2020年度中に書籍『財産権の経済史』として刊行されることが内決した。さらに全国銀行学術研究振興財団の研究成果の公開に関する助成金も得た。 なかでも、申請者が取り組んだ対象は、明治初期における債権の近代化の問題である。明治4年(1871)の廃藩置県とその後の藩債処分の過程で、明治国家は近世期以来の大名貸債務の一部を引き受ける形となった。申請者は、「古債」と呼ばれる古い債務を国家が引き受けなかったこと、大名貸債権は極めて譲渡性が少なかったが、新旧公債証書は売買が盛んに行われたことに注目し、藩債処分を通じて①一定の時間が経過した債権を棄捐する消滅時効の論理が導入された、②大名貸の借用証書が新旧公債証書に切り替わり債権の譲渡性・流動性が高まった、などの観点から、当該政策の債権の近代化に果たした役割を評価した。また、藩債処分が個別の両替商経営に与えた影響も相対化した。そうして、債権保護が経済活動のインセンティブを与えた点を論証し、ノースら制度経済学の議論の有効性を債権分野において追認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度において、①学術出版社として蓄積のある東京大学出版会から刊行することが内決し、さらに②全国銀行学術研究振興財団の出版に対する助成金(125万円)を得ることができた。また、③すべての原稿は2020年2月に脱稿し、現在は校正の最中である。 本研究の目的は、財産権に関わる幅広い実証研究を集積するとともに、法学・歴史学・経済学の知見から統合的な分析を行うことにある。そのため、単独の研究ではなく、申請者を含めた共同研究の体裁をとり、さらに書籍化して分野間の交流を進めることを企図している。こうした目的に照らしても、上記①~③の進捗状況は、2020年度中に本研究を完結させる目途を立たせるものであり、順調な進展と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、書籍刊行のための校正作業を続ける。書籍は複数分野にまたがる専門的な学術書になるため、出版社の校正者のみではなく、専門的な素読み・校正を外部に依頼する。 書籍は2020年8月までに刊行予定であるが、刊行後は書評会を開催し、学界からの批判を仰ぐとともに、研究成果を広く提示する。 2020年度は対面での作業・会合が困難になることが予想されるため、適宜オンラインで対応する。
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Causes of Carryover |
研究が円滑に進み、個別の論文執筆の段階に入ったため、全体での会合は2回にとどまった。そのため、旅費の予算執行額が減少している。 次年度において、法学・歴史学のそれぞれの専門的知識を有する者に、原稿の素読み・校正を依頼するため、その予算に使用する予定である。
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Research Products
(1 results)