2020 Fiscal Year Research-status Report
雇用・労働市場政策と社会保障制度の接点に関する研究
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18K01971
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
廣瀬 真理子 東海大学, 教養学部, 客員教授 (50289948)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
下平 好博 明星大学, 人文学部, 教授 (40235685)
小渕 高志 東北文化学園大学, 医療福祉学部, 准教授 (10405938)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 福祉国家 / 社会保障制度 / インフォーマル雇用 / ユニバーサル・ベーシック・インカム / EU / 最低賃金 / 生活保護受給者 / セーフティ・ネット |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の計画では、令和2年度が本研究の最終年度であったが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により欧州への渡航が制限され、海外調査が実現に至らなかったため、研究期間の延長を申請した。しかし国内では、メンバー各自が役割分担に沿って課題に取り組み、オンライン形式の研究会(4回)における報告と議論を通して、本研究に新たな視点を加えることができたので、以下にその概要について述べる。 第1に、雇用形態の変化が社会保障制度に与える影響について、歴史的視点から、工業化の過程で正規雇用以外の「インフォーマル雇用」が果たした役割について、日本と欧州のそれぞれの特徴が明らかにされた。そして近年、論議を醸している非正規雇用と自営業との境界が薄れつつある新たなタイプの「インフォーマル雇用」への対応策として、既存の社会保障制度のなかに非正規労働者と自営業者を組み入れていく方法と、「ユニバーサル・ベーシックインカム」のような新たな制度を導入する2つの可能性が検証された。 第2に、EUが最近公表した最低賃金指令案について、最低生活保障と関連づけた議論が行われた。同指令案には、一国内で所得格差を是正することや、増加する不安定就労層の賃金を改善する目的が示されているが、加盟国のなかには、最低賃金に所得保障給付を連動させて最低生活保障の客観的基準としている事例もあり、福祉国家における最低賃金の役割についても分析・考察を加えた。 第3に、新型コロナウイルス感染症拡大の生活への影響は社会的弱者に集中するといわれながら、日本の生活保護受給者数はこのところ減少傾向にある。この実態を明らかにするために、まず、コロナ禍に直面する前後の時期のデータから、被保護世帯の状況を地域と属性別に分析した。その上で、平常時の社会保障給付と緊急時の特別給付とのつながりに注目し、その整合性について検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、近年の日本とEUの福祉国家に共通した問題となっている不安定就労層の拡大と、それに対応する最低生活保障のあり方について、理論研究と実証研究の両面から分析・検討を進めてきた。 理論研究については、文献サーベイから始めて、研究計画における役割分担に沿って、各自が問題意識を設定し、年間に3回~4回研究会を定期的に開催して報告と議論を重ねてきた。具体的な内容は、年次ごとの研究実績の概要に記述したとおりである。つまり、文献による理論研究において、進捗状況は順調に進展したといえる。 しかし、実証研究の面では前述したとおり、突然の新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、欧州への渡航が制限されたため、本研究期間の後半に予定していたオランダ・ベルギーにおけるヒアリング調査は、延期せざるを得なくなった。この点については、研究の遅れとなってしまったが、メンバー全員で本研究の完結をめざして取り組んできたため、最後まで研究計画に沿って本研究を遂行したいという思いから、「補助事業期間の延長」を申請したしだいである。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度まで研究期間の延長がみとめられたことと、所属機関を移籍したことにより、科研費研究が継続できることになった。 そこで次年度は、新型コロナウイルス感染症拡大が終息へと向かい、欧州への渡航が平常のスケジュールに戻りしだい、オランダ・ベルギー調査が実施できるように、現地機関との連絡などの準備を進めておくことを最優先する。また、コロナ下での対面会議の制約により、欧州で開催される学会やシンポジウムなどにオンライン参加ができる機会が増えたので、それらも活用して研究へのヒントを得るつもりである。 そのほか、国内ではオンライン形式による研究会を月1回程度開催して、引き続き研究報告を行うとともに、本研究の成果のまとめ方と発表方法についても準備を行う。 最後に、本研究の今後の推進方策については、雇用・労働市場政策と社会保障制度の接点における課題に、新たにコロナウイルス問題の影響も加えて、「労働者」の就労と最低生活保障について、福祉国家の役割を再検討する研究につなげたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主な理由は、研究期間内に予定していた欧州でのヒアリング調査が、令和元年度末以降、新型コロナウイルス感染症拡大によって延期となったためである。渡航制限が緩和されしだい、現地調査を行うつもりであることから、旅費予算をそのまま次年度送りにして確保してきた。また、現地でなければ入手できない書籍・資料の購入も計画しているため、海外調査に比重を置いて予算を確保している。 令和3年度まで研究期間の延長がみとめられて、現在、欧州への渡航が平常に戻る時期を待っている状況であるが、目標は、同年度内に現地調査を実施することである。それは、今回の調査が、新たな最低生活保障制度として日本でも論議を呼び起こしている「ベーシック・インカム」の分析を含んでおり、実証研究を加えてその成否を検討することが本研究の主要な柱に位置づけられているからである。 しかし、新型コロナウイルス感染症拡大の状況には、まだ終息の兆しが見えず、令和3年度内に欧州への渡航が緩和されるという保証もない。万一、海外調査が遂行できず、研究期間の延長もみとめられない場合は、文献研究による研究成果の発表や報告書の発行などに切り替えることも考えている。
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Research Products
(3 results)