2021 Fiscal Year Research-status Report
雇用・労働市場政策と社会保障制度の接点に関する研究
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18K01971
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
廣瀬 真理子 大阪市立大学, 大学院経済学研究科, 客員研究員 (50289948)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
下平 好博 明星大学, 人文学部, 教授 (40235685)
小渕 高志 東北文化学園大学, 医療福祉学部, 准教授 (10405938)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 福祉から就労へ / 福祉国家改革と成長戦略 / EU最低賃金指令案 / 労働保険 / 就労貧困 / プラットフォーム労働者 / コロナ禍の生活保護制度 / 最低賃金とセーフティ・ネット |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、文献研究と実証研究を並行して行う予定であったが、新型コロナウイルス感染症拡大の長期化により、欧州調査が実施できず、研究期間は、令和4年度まで再延長がみとめられている。国内における文献研究は順調に行われ、定期的(年6回)にオンライ ン研究会を開催した。 本年度の研究実績の概要について、まず理論面から述べれば、福祉国家の類型論の見直し方向について、主な先行研究を整理した上で、最近、欧州の研究者が発表した福祉改革と成長戦略を連動させた新たな類型論について考察した。同研究は、福祉国家の発展と成長戦略は両立できない、という今までの見方を転換して、福祉国家を成長戦略の中心にすえており、新たな福祉国家のあり方を検討する上で参考になる視点を提供している。 次に、EU加盟国の間で急速に増加した新しいタイプの不安定就労層(プラットフォーム労働者)の保護に関して考察した。デジタル化の進行により、その影響を受けやすい労働者に対して、労働・社会保障法制度の対応が遅れていることが明らかにされている。最近、プラットフォーム労働者の労働条件の改善に関するEU指令案が提出されたが、同様に、最低賃金指令案も、「就労貧困」を予防する目的をもつ。これらの労働・社会政策分野におけるEU法と加盟国の社会保障制度による不安定就労層の人々に対する保護のあり方について考察した。 さらに、研究計画に追加した研究課題であるが、日欧の労働市場へのコロナ禍の影響について、Oxford Stringency Indexデータを用いて欧州各国のCOVID-19 対策について比較を行い、日本のコロナ対策への政策的介入度が欧州に比べて低いことを明らかにした。また、日本の状況については、基礎統計をもとにして、コロナ対策全般への評価、生活困窮者へのコロナ対策の評価、またコロナ禍の生活保護受給者の実態などについて研究会のメンバーの間で共有した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
国内で新型コロナウイルス感染症が拡大したため、研究会を当初の対面方式からオンライン開催に切り替えたが、それによりかえって、研究会の開催時間に余裕が生まれ、議論の時間が増えた。基礎文献の購読から始めた本研究会は定期的に開催しており、毎回活発な議論が展開されて、順調に進められている。 しかし問題は、前述したように、新型コロナウイルス感染拡大により、予定したベルギー・オランダへの渡航の見通しが立たないことである。研究計画の中心に据えていた現地調査が遂行できなくなったことが、研究全体の遅れに影響を与えたことは否めない。 だが、マイナス面ばかりでなく、本年度を振り返ってみると、研究活動に思いがけない収穫もあった。それは、欧州の大学や研究機関で対面会議の代替策として、オンラインでの学会や研究会、シンポジウムや書評ワークショップなどが、より頻繁に定期的に開催されるようになったことである。これまでは、物理的に出席できなかった研究会やワークショップなどをオンラインで聴講できる機会が増えた。そのなかで、本研究会の研究計画に沿ったテーマで開催される欧州のオンライン会議の情報を本研究会のメンバーで共有しており、本研究会での議論にも役立てている。 たとえば、就労形態の多様化が生み出す不安定な非正規労働者の「就労貧困」や、ホームレスへの対応策など、日欧における共通課題となっているが、それらの課題に対して研究者だけでなく、労働組合の対応や、EUの担当者などから、受け皿となる社会保障法制度の改正の視点と併せて、今後の労働者保護のあり方に関する具体的な議論を聴講できたことは、研究を進める上で大いに役立ったといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度に欧州への渡航が平常のスケジュールに戻りしだい、欧州調査を実施することを念頭において、その準備を進めておきたい。その間も国内での研究会は通常どおり2か月に1回のペースで行い、役割分担に沿った研究発表を続けていく予定である。それと並行して、研究成果の発表方法についても検討する。 本研究テーマは今後も継続して研究課題としていくつもりである。それは、雇用の質の劣化や失業がもたらす問題は、勤労世代のあらゆる人々の生活の基本を不安定にするだけでなく、婚姻から子育て・教育、老後の公的年金受給にいたるまで、生涯にわたる生活に影響を及ぼす可能性があると考えられるからである。 最近の雇用と労働市場の大きな変化に対して現行の社会保障法制度・政策が対応できていないことが、日欧において共通した問題として指摘されている。コロナ禍による今後の影響も見逃せない。可能であれば、欧州の研究者との研究交流を通して、欧州諸国との比較の視点に立って、雇用と労働市場の問題を新たな福祉国家の枠組みのなかにどのように位置づけていかれるのか、引き続き検討していきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
ベルギー・オランダ調査を中心に据えた本研究計画は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により令和元年度末以降、渡航の見通しが立たない状況となった。当初の計画に沿って研究を遂行することを目標としてきたが、欧州での国際学会への参加費用や、現地で購入を予定している書籍代金のほか、新型コロナウイルス問題によって、旅費全体に追加的予算が必要となることが予想された。そこで、研究期間の延長申請を希望する際に、研究代表者と分担者は、それぞれ配分された予算をできるだけ旅費と成果報告の準備のために確保しておくことにした。そのため、次年度使用が生じることになった。 以上の理由から、次年度使用分の使用計画については、これまでの予定どおり、海外調査を遂行するための予算に充てることを最優先したい。しかし、今なお新型コロナウイルス問題に終息の兆しが見えないだけでなく、最近ではロシアのウクライナ侵攻によって、欧州への飛行ルートにも制約や変更が発生している現実もある。令和4年度中にこれらの問題が改善されて、欧州調査が遂行できれば幸いであるが、現時点ではそれも明確ではない。もし、このままの状態が継続して本年も現地調査が行えず、これ以上研究期間の延長がみとめられない場合には、ここまでの研究成果の発表に切り替えて、その準備のための予算の使用方法を検討するつもりである。
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Research Products
(3 results)