2019 Fiscal Year Research-status Report
Analysis of Mental Structure of Japanese Soldiers: Through Soldiers' Notes
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18K01989
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| Research Institution | Institute on Social Theory and Dynamics |
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Principal Investigator |
青木 秀男 特定非営利活動法人社会理論・動態研究所, 研究部, 研究員 (50079266)
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| Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西村 明 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (00381145)
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| Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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| Keywords | 日本軍兵士 / 精神構造 / 生と死 / 体験と記憶 |
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| Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は2つある。一つ、日本兵の精神構造（心情と意識）を分析すること。兵士たちが戦場にあって軍隊や戦友、故郷や家族、自分の境遇についてなにを感じ、なにを考えていたのかについて分析する。二つ、その精神構造を生んだ背景を分析すること。ここで背景とは、戦争・戦場・軍隊等の状況要因、兵士の生活史（家庭環境、教育経験）を指す。三つ、兵士の精神構造分析を、戦後に刊行された体験記や回想記等に資料の範囲を広げて行うこと。四つ、同じく、戦後に現在まで行われている戦没者の慰霊式典等の参与観察と参加者への聞き取りを行うこと。そして元兵士たちの記憶（およびその変容）を分析し、兵士の精神構造の理解を深めること。本研究は、これらの目的を達成するために、次の作業を行った（いずれも昨年度に続き、また次年度に引き継がれるものである）。一つ、兵士の精神構造の分析枠組を洗練し、緻密化するために、文献の購入、図書館での閲覧・複写により先行研究のレビューを行った。二つ、夏季休暇・冬季休暇を中心に、兵士の日記・手紙・遺書・手記（以下「手記」）を収めた施設（わだつみ記念館、防衛研究所、遊就館）、国会図書館で「手記」を閲覧し、パソコンに入力した。三つ、4月20日－21日に、関西学院大学で開催された戦争社会学研究会の研究大会に参加して、本研究に関わる情報を収集した。研究代表者の青木はこのシンポジウムで報告した。分担者の西村はこの研究会の代表であり、情報の収集にさまざまな便宜を得ることができた。四つ、8月26日に、東京大学の宗教学研究室で、2020年1月13日に同場所 で、3月21日-22日に社会理論・動態研究所（広島）で、研究代表者・分担者、および博論執筆などで戦争研究を行う大学院生3名を入れて研究会（合宿）を行った。
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| Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的の達成のための資料・情報収集は、順調に進んでいる。いくつかの希少な文献や貴重な資料の入手もできた。また、研究代表者・分担者の研究会も、議論が進んでいる。研究代表者は社会学者であり、分担者は宗教学者である。異なる学問による共同研究としてのジョイントはいかにして可能か。議論は、この問題関心を軸に展開された。研究代表者は、兵士の精神構造の形成と動揺を「生から死へ」の回路から分析する。分担者は、それを「死から生へ」の回路から分析する。また代表者は、戦場での兵士の精神構造に焦点を当て、そのために兵士が戦場で書いた「手記」の分析に集中する。分担者は、戦場での兵士の精神構造だけではなく、戦後に編集された文献・資料を含めて分析する。こうして、社会学と宗教学の視点・方法・解釈を対照させ、その差異をクリアにし、そのうえで、たがいに補強しあうかたちで兵士の精神構造像を浮き彫りにする。
また代表者は、兵士の精神構造を日本近代の精神構造のなかに位置付ける作業を行った。そこでは、日本社会の統合原理としてあったイエ・ムラ・セケンが分析の課題となる。兵士もそれらの規範に縛られた人々であった。愛する家族と美しい故郷を「敵」から守るために兵士になる。兵士になることを拒否して、家族が非国民とならないために、村八分されないために兵士になる。いわば兵士は、家族を国家の人質に取られている。議論は、このような兵士の精神構造の背景・基盤に及んだ。
本研究は、兵士の精神構造を分析するために文献・資料・聞き取りを収集する。それらをどのような視点と枠組により解読するのか。その先でどのような兵士の精神構造像が構築されるのか。このような問いゆえに、代表者と分担者の議論は重要になる。3回の研究会を通して、問題意識の対照点と合一点が少しずつ固まってきた。
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| Strategy for Future Research Activity |
今年度は次のことを行う。一つ、調査に関して。まず、わだつみ記念館、防衛研究所、遊就館、図書館での資料収集と聞き取りを継続する。次に、資料収集の範囲を広げる。福岡県鞍手郡小竹町の武富戦争資料館、福井市の戦没兵士の遺族、農民兵士の手記を収める岩手県北上市の北上平和祈念館を訪ねて、資料の収集と聞き取りを行う。二つ、研究代表者と分担者の会議について。まず、社会学と宗教学のジョイントに向けて理論・実証に関する議論を続ける。議論を深め、戦争研究の方法論、戦争に関わる社会学・宗教学の諸理論を広く参照して、それらのどれがどのように調査データの分析に援用可能であるかを検証する。三つ、研究代表者は、兵士の精神構造の分析のすそ野を広げる。まず、銃後にある兵士の家族や市民の精神構造に考察を広げる。代表者は、第五師団があった軍都広島と第九師団があった軍都金沢の「臣民」の精神構造について分析してきた。家族や市民の精神構造の分析は、兵士のそれの延長にある。次に代表者は、転向について論文を書いたが、その分析をさらに深める。転向とは、知識人のイデオロギーや思想の変更だけではなく、一般市民の生き方の変更を含む広範な心的事象であった。男たちは兵士になったとき、どのように死を受け入れたのか。その心情と生き方の変更も、兵士の精神構造の分析の一部である。本研究は、それらの問題を直接研究するものではないが、兵士の精神構造の分析の与件として重要となる。四つ、研究分担者は、兵士の精神構造の分析を延長し、戦後における戦争の記憶・回想に焦点を当て、慰霊祭や戦争に関わるさまざまな催し、さらにアジアやアメリカで生きる戦争体験者の記憶・回想など、広義・狭義の「戦争と宗教」に関わる出来事に考察の範囲を広げる。
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| Causes of Carryover |
2020年2月～3月に、日本軍兵士の手記等を収めた資料館（福岡県鞍手郡小竹町の武富戦争資料館）、特攻隊員関係の資料を収めた資料館（山口県周南市の回天記念館）、農民兵士の手記等を収めた資料館（岩手県北上市の北上平和祈念館）を訪ね、また手記を残した戦没兵士の遺族を訪ねる（福井県福井市）予定であったが、コロナ・ウイルスの感染が全国に拡散するなか、これらの計画を中止せざるをえなかった。2020年度にウイルス感染の拡大が収まった時期に（秋になるとみているが）、これらの訪問を行いたい。そして得られたデータを、日本兵の精神構造の分析の資料として使用し、本研究プロジェクトの完成をめざしたい。
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