2018 Fiscal Year Research-status Report
重度障害者の就労支援における工賃向上のための「高知モデル」の構築
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18K02112
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Research Institution | University of Kochi |
Principal Investigator |
遠山 真世 高知県立大学, 社会福祉学部, 講師 (20409551)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 障害者 / 就労継続支援 / 工賃向上計画 / 障害者優先調達法 |
Outline of Annual Research Achievements |
障害者の就労継続支援B型においては、工賃の低さが長年にわたり課題とされてきた。従来、工賃倍増計画や工賃向上計画を定め取り組みが進められてきたが、工賃はわずかしか伸びていない。なぜ工賃が上がらないのか、B型事業所ではどのような課題に直面しているのかを分析するため、これまでの研究では5か所のB型事業所でインタビュー調査を行ってきた。 本年度はまず、5か所のB型事業所での調査データを再分析し、工賃向上を妨げると考えられる要因や構造を抽出した。その結果、調査を行ったB型事業所では、障害の重度化・多様化、利用者の高齢化が生じており、利用者ひとりひとりに応じた支援が必要となっていることがわかった。B型事業所では、そうした支援の必要性や多様性が高まっていることに加え、工賃を向上させることが求められており、それら2つを同時に遂行していくことの難しさに苦慮し限界を感じていた。このような中で、それぞれの事業所では少しでも工賃を上げるための取り組みを行っていた。収益の大きい作業を中心に作業内容を改編したり、外部業者からの受託作業を減らし事業所オリジナルの自主製品の導入・拡大することを考えている事業所もあった。工賃向上計画等にもとづく行政からの支援については、行政が設けた販売所で利益を上げることができた一方で、そうした場や支援が単発的で継続性がないと感じられていた。また、外部から単価の安い作業をいくつも受託している事業所も多く、さまざまな利用者に合った作業を提供するためには、そのようにならざるをえない構図が描出された。 もうひとつの政策動向として、障害者優先調達法が施行され数年が経過し、行政機関による障害者就労施設からの優先調達が進められ、共同受注窓口の仕組みも整備されつつある。そのため本年度は、そうした新たな取り組みの実績についても行政機関のホームページ等から情報収集を行ってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで行ってきた障害者就労継続支援B型事業所へのインタビュー調査のデータを再分析することで、B型事業所が現在直面している課題を明らかにするとともに、工賃向上を阻んでいる要因や構図を抽出することができた。これらの研究成果をもとに、高知県のB型事業所にたいする全数調査につなげるため、アンケートの質問内容や仮説を検討することができると考えている。 また、障害者優先調達法にもとづく行政機関からの調達実績や共同受注窓口等の取り組みについて、ある程度まで情報を収集することができた。こうした新たな動向に関する質問を今後のアンケート調査に盛り込むことで、新たな政策が施行されたことによるB型事業所や工賃への影響を分析できるようになると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
高知県は、全国の中で一般的な最低賃金は低い地域である一方で、障害者就労継続支援B型事業所の平均工賃は全国の中でもトップクラスに位置している。なぜ高知県で高い工賃を実現することができるのか、どのような要因が影響しているのか、また、工賃向上を阻む要因としてはどのようなものが影響しているのか、高知県全体での状況を分析するため、今後の研究では高知県内のB型事業所すべてを対象とした全数調査を企画・実施していく予定である。 それと同時に、高知県の特徴を明らかにするためには、全国各都道府県に関するデータ収集と分析が必要であると考えている。そのため、各都道府県のB型事業所の工賃や作業内容などについて情報を収集し、工賃が高い都道府県・工賃が低い都道府県の状況や背景について分析していく予定である。
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Causes of Carryover |
本年度は書籍を購入するよりも論文や調査報告書を収集することに重きを置いた。近年はインターネット上で公開されPDF等で閲覧できる論文・報告書が増えており、論文の収集のため支出した金額も少なかった。また、本年度はこれまで行ったインタビュー調査の再分析が必要であると判断し、新たなインタビュー調査を行わなかったため、調査協力の謝礼やデータ入力のアルバイト代等の支出がなかった。 次年度は、各都道府県の情報を収集しデータ化することや、アンケート調査を行うための調査票の印刷・発送・データ入力などにアルバイトを使用したいと考えている。また、より高度で多様な分析ができるよう、充実した統計ソフトを購入する予定である。
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