2021 Fiscal Year Annual Research Report
A Historical Study on Boundary Works of Pedagogy Confronting Evidence-based Approach
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18K02282
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
杉田 浩崇 広島大学, 人間社会科学研究科(教), 准教授 (10633935)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
白石 崇人 広島文教大学, 教育学部, 准教授 (00512568)
宮原 順寛 北海道教育大学, 大学院教育学研究科, 准教授 (10326481)
熊井 将太 山口大学, 教育学部, 准教授 (30634381)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 教育学の自律性 / 希望 / 偶然性 / 中等教育改革 / 心理学の台頭 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はこれまでの研究成果を基に、エビデンスをめぐる教育学の境界画定過程をその歴史的な文脈、とりわけ心理学の台頭に対峙するときの高等教育における学問領域の再編や中等教育改革、多様な学力を持つ子どもたちへの応答などの教育問題に焦点化して考察を深めるとともに、教育においてエビデンスを語ることの原理を検討した。歴史的な文脈に照らした考察では、ドイツ教授学におけるヘルバルト派のうち、ヘルバルトの形而上学的-数学的心理学を引き継ぐドロービッシュの系譜とは別に、新しい実験的-生理学的心理学を支持するシュトゥルンペルやフォルクマン、ヴァイツといった系譜があり、とりわけ教育が有効に機能する条件として子どもの個性を適切に把握することを挙げるシュトゥルンペルのアプローチが子どもへの病理学的なまなざしにつながったことがわかった。また、英米圏に特徴的なこととして、初等教育の普及に伴う多様な学力への効果的な対応と新教育運動の高まりが、ともに心理学の台頭と密接に関係し、伝統的な大学の学問領域の外部において、実証的な科学が広がったことがわかった。教育学の自律性は学問的な基礎付けをめぐる問題に留まらず、そこでの「エビデンス」の境界画定はアカデミックな領域とは異なっていたことが推察された。 他方で、教育においてエビデンスを語ることの原理を、「希望」や「偶然性」といったキーワードを中心に考察した。ボルノウの「希望の哲学」から教育実践の複雑性を縮減するのではなく、不確実で予見不可能なものを引き受ける教授学のあり方を模索するとともに、蓋然性の歴史的な位置づけの変化をふまえて「偶然性」を「蓋然性」や「可能性」とは切り離して語りうることを示した。今後は、原理的考察が19世紀末から20世紀初頭において検討されたことをふまえて、教育学の境界画定過程を再検討する必要があろう。
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