2020 Fiscal Year Research-status Report
イメージ・コンピテンシーと現代ドイツ芸術教育論の新潮流
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18K02689
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Research Institution | University of East Asia |
Principal Investigator |
清永 修全 東亜大学, 芸術学部, 教授 (00609654)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 現代ドイツの芸術教育学 / イメージ指向の芸術教育論 / イメージ・コンピテンシー / イメージ学 / イメージ・アトラス / アビ・ヴァールブルク / ロルフ・ニーホフ / クニベアト・ベアリング |
Outline of Annual Research Achievements |
令和二年度は、「イメージ・コンピテンシー」概念を軸に現代ドイツ芸術教育論の新潮流について分析するという本研究テーマに即して、2019年3月に二度に亘って訪れたノルトライン=ヴェストファーレン州にあるフィルダー・ベンデン・ギムナジウムで視察した授業実践を取り上げ、詳細な分析を施し、大学紀要に発表した。その際、「イメージ指向」の芸術教育論を牽引し、その中核概念であった「イメージ・コンピテンシー」概念を刻印してきた二人の代表的な研究者であるロルフ・ニーホフ氏とデュッセルドルフ芸術アカデミーのクニベアト・ベアリング教授らにとって大きな理論的なバックボーンの一つをなしている、19世紀末のハンブルクの美術史家アビ・ヴァールブルクの「イメージ・アトラス」のコンセプトについて取り組んだ。それは、「イメージ・コンピテンシー」概念の芸術教育論の理論的・思想史的背景およびその射程を理解する上で必要不可欠な作業であった。また、ニーホフやベアリングの理論をベースに構想された授業実践を取り上げることで、その理論の実践での可能性と射程を見極める作業ができた。これによって「イメージ指向」の芸術教育論の潮流を、理論と実践の双方から複眼的な視点から考察することが可能になった。さらに、上記の知見を背景に、2020年3月にベルリンで行った哲学者・美学者ヴォルフガング・ウェルシュ教授とのインタビューの原稿を校訂する作業を行った。また、2020年の12月には上記のベアリングの退官記念論集『芸術の授業と陶冶』に論考を寄稿を果たした。加えて、「イメージ指向」の芸術教育論の動向を「ヴィジュアル・リテラシー」という側面から推進する代表的な論者であるミュンヘン芸術アカデミーのエルンスト・ヴァーグナー氏との交流の成果は、同年度同アカデミーのプロジェクトのホームページから発表した英文と独文によるそれぞれの論考に結実している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和元年度は、現代ドイツにおける芸術教育・芸術教授学の三大潮流の一つに数えられる「イメージ指向」の芸術教育論を包括的に捉えるべく、当該潮流を代表する論者で、かつその中核概念として掲げられることになる「イメージ・コンピテンシー」の概念を実質的に刻印し、運動を牽引する二人の代表的な芸術教育学者であるロルフ・ニーホフとクニベアト・ベアリングの様々な著書や論考と取り組んだ。その際、陶冶理論を含む現代ドイツの教育理論や、同意時代の芸術論・美学理論、メディア理論の展開、文化論などの視点から分析した。しかしながら、その中でもとりわけ重要な理論的な支柱をなす19世紀末ドイツを代表する美術史家であるアビ・ヴァールブルクの「イメージ・アトラス」を巡る考察はなお不十分なままにとどまっていた。令和二年度には、この点を理論的に深めることで、上記の新しい芸術教育論に対する認識に対する視点を確かなものにすることに努めた。本来ならば、そこからさらに「イメージ学」という美学・芸術学・美術史学に関わる新しい潮流の理解を深める作業を想定していたが、十分には果たせず終わった。代わりに、上記理論に依拠した授業実践を分析することを通して、その実践上の可能性と射程を見極める作業を行った。これは、本潮流の有意義性を理論と実践の両面からバランスよく把握する上で不可欠な作業であった。本研究の意図は、上記の新潮流の必然性を同時代の理論的営みの多元的な背景に規定し、批判も含めてその射程を見極めることにあった。その意味で、2020年3月上旬に行った、現代のドイツの芸術教育関係者の間でことのほか大きな影響力を持つ現代ドイツを代表する哲学者・美学者であるヴォルフガング・ヴェルシュのインタビューは重要な意味を持つ。本年度には、同氏の協力も得つつ、その原稿の校訂作業を行った。上記の潮流を捉えるもう一つ別の視点が得られたと感じている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる本年度は、本研究にとって中核的な意義を担うニーホフとベアリングの2013年の共著『イメージ・コンピテンシー』のを中心にすえ、彼らの視点を通して見た「イメージ指向」の芸術教育論に対する理解をより深めるとともに、また、昨年度は十分に果たすことのできなかった「イメージ学」のより正確な把握に取り組んで行きたい。その際、特に両者の理論的考察における美術史学研究のしめる役割について注目したい。また、彼らのポジションの正統化に際して理論的背景の一端をなしていると考えられる「イメージ学」に対する理解についても一層深めるべく努力したい。こちらに関しては、現代イメージ学の潮流を牽引するホルスト・ブレーデカンプやゴットフリート・ベーム、ハンス・ベルティング、さらにはクラウス・ザクス=ホムバッハらの諸論考と取り組むとともに、コロナ禍が終息し、可能になるようであれば、特に、芸術教育の問題にも発言のあるザクス=ホムバッハには直接会って意見交換が行えればと考えている。これらの研究によって、「イメージ・コンピテンシー」の概念に依拠した「イメージ指向」の芸術教育論の現代的な意義をより多元的な視点から確認するのみならず、従来の芸術教育論を同時代の文化的・社会的コンテクストに鑑みて刷新する可能性を見極めたいと思う。そのことによって、例えば、伝統的な鑑賞教育理論の超克する理論的な視座がそこには存在することをも同時に確かめることができればと考える。
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Causes of Carryover |
昨年度は、折からのコロナ禍のため、当初予定していたドイツでの調査研究をはじめ、そのための予備調査も含め研究活動が著しく困難となり、想定していた計画を全うすることができなくなってしまったため。今年度は、改めてそのための研究を推進するために必要な文献等を購入し、またコロナ禍が終息した暁には、関連研究者を現地に訪れ、意見交換などを行いたいと考える。そのための費用が必要となるため。
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Research Products
(6 results)