2019 Fiscal Year Research-status Report
タンジブルな数学教材の操作を再現するシステムの構築と学習者の思考過程の分析
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18K02872
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
金子 真隆 東邦大学, 薬学部, 教授 (90311000)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高遠 節夫 東邦大学, 理学部, 訪問教授 (30163223)
北本 卓也 山口大学, 教育学部, 教授 (30241780)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 操作ログの解析 / 動的幾何 / 探求学習 / Productive Failure |
Outline of Annual Research Achievements |
令和元年度は、前年度に構築したMoodle上でのCindyJSによる動的幾何コンテンツの操作に伴うログ取得システムを利用し、iPadに実装したコンテンツの学習者による操作履歴の分析を中心に研究を進めた。探求型の数学学習(Inquiry Based Learning)を進めるために用意した、関数の多項式近似に関する動的なシミュレーション教材を主に利用して、数理的な能力に差異があると想定される学習者層にコンテンツの操作を依頼し、その操作ログから抽出したパターンに階層に相応した特徴的な差異がないか、統計的に解析することを試みた。従来から行っている、グループでの操作のパターンの時間遷移と、学習者間のコミュニケーションに伴う対話・ジェスチャーなどの時間遷移との対照により、本研究で注目している操作パターンの特徴量が、学習者の操作方略・思考プロセスに関する一定の裏付けを与えることが示唆されている。本年度の結果は、学習者の数理的能力が高い場合、知識量の豊富さや概念的な理解の正確が効率的な探求活動に結び付くという直接的な因果関係にとどまらず、潜在的に有益な「失敗」(Productive Failure)を自ら経験し、それによって数式的な取り扱いのみでは理解が難しい数理的なメカニズムに関する理解を、操作プロセス自体を通じて深めて行ける可能性を強く示唆するものとなった。以上の結果については、ログ取得システムの利用可能性に関する提言と併せて、3月下旬に行われた国際会議LAK2020(Learning Analytics and Knowledge Conference)においてポスター発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、研究協力をお願いした数理的能力に秀でた学習者をかかえる教育機関の協力により、これまで実験授業を実施していた、限られた学力層の被験者から、対象を広げることができ、新たな知見を多く得ることができた。Moodleにログ取得システムを実装することで、多様な場面でより多くの被験者を対象とした教育実験を行える可能性も膨らんでおり、今後の進展が期待できるものと考えている。ただ、本年度末から発生している新型コロナウィルスの感染拡大により、教育実験の実施に制約がかかっているところが心配される点である。オンラインでの実験授業が可能であるとは言っても、特に動的コンテンツの操作プロセスのような繊細なデータを分析するにあたっては、平常の授業時における学習の進行状況や、実験実施の前後における被験者の行動に関する観察などの結果と対照した形の分析が必要とされる場面が少なくなく、対面の形での実験実施に制約がかかることの影響は小さくない。多くの大学では、令和2年度に入り、相当の長期間にわたって多くの学生を対象とした対面での授業が行えない状況が続くことが懸念されており、本研究に対する悪影響が大きくならないか、懸念されるところである。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究結果は、これまでの多くの研究が想定していたような、動的コンテンツなどを用いた探求学習が学習者の能力向上に貢献するという一方向の因果関係のみを前提とするのでは不十分であり、そもそも学習者の持っている潜在的な数理能力によって、探求学習によって学べることの幅に大きな差異が生じてしまう可能性を想定しておく必要性を強く示唆するものである。従って、動的幾何に限らず、広くICTを用いた数理科学の教育を進めていく上で、以下の2つの視点が重要であると考えられる。 (1)学習者の操作・思考の行き詰まりを教授者がキャッチするために、操作ログのどのような特徴量に注目したらよいか。 (2)(1)の特徴量をふまえた時に、学習者の探究活動を望ましい方向に誘導するためには、教授者がどのような介入を実施したらよいか。 (1)は、いわば数理科学の探求学習に関する診断モデルをいかに確立するかという問題ともとらえることができるが、本年度の結果が示すように、学習者が単純に「公式通り」の結果を効率的に導き出していることが必ずしも好ましいとは言えないところに非常な難しさがある。今後、さまざまな学力層の被験者による操作のログを集積し、探求学習の深浅が特に操作の初期段階のどのような差異から発生するのか、また、そうした差異が学習者の持つ数理的能力のどのような側面から発生するものなのか、分析を進めたいと考えている。
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Causes of Carryover |
2020年3月にフランクフルトで開催が予定されていたLAK2020が新型コロナウィルス感染拡大の影響でオンライン開催となり、旅費が支出できなくなった。同様の理由により、対面での実験授業の実施が困難な期間が長期間にわたる危険性があるため、遠隔でこれを実施できるような専用サーバーの確保など、オンライン上で研究を遂行できる手段の確保に重点的に使用したいと考えている。
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Research Products
(9 results)