2019 Fiscal Year Research-status Report
「深い学び」を実現するための「理論―実践-評価モデル」の構築と実践に関する研究
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18K02957
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Research Institution | Kyoto University of Education |
Principal Investigator |
村上 忠幸 京都教育大学, 教育学部, 教授 (20314297)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
樋口 とみ子 京都教育大学, 教育創生リージョナルセンター機構, 准教授 (80402981)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 深い学び」 / 対象世界 / 探究学習 / 前仮説段階 / 省察 / メタ認知 / 紙コップの不思議を探る / コンピテンシーベース |
Outline of Annual Research Achievements |
「深い学び」を実現するための「理論-実践-評価モデル」の構築及び実践に向けた本研究において、「深い学び」における深化形成のために以下の2つの柱を立てた。1つは、「主体的・対話的で深い学び」における、自己との関係において「主体的」,他者との関係において「対話的」,対象世界との関係において「深い」という「深い学び」への接近を図る視点である。もうひとつは対象世界について,「自分のこれまでの知識や経験と結びつけると同時にこれからの人生につなげていけるような学習」とする「深い学び」の質・内容の視点である。これらに基づき深化形成の3つの段階として「深い学習」「深い理解」「深い関与」をあげて整理した。 本研究では探究学習を「自由度の高い協働的な探究学習」としその理論的背景の一つにmessing aboutを位置付けた。messing aboutは「自由試行」と表現されることもあり、全ての教科に対応する汎用性のある学びの概念である。また同時に,探究学習において仮説に至る前段階に注目し、それを「前仮説段階」と称して探究プロセスの実践の柱とした。 具体的には「紙コップの不思議」という探究プロセスについて実践および分析を行った。その結果 「日常的によく見ている(はずの)身近な現象でありながら,その不思議さに気づきもしなかった謎への動機づけ」,「自由試行,試行錯誤に伴うエンゲージメントの維持・持続」,「探究を果たした時の達成感」等を生み出すコンピテンシーベースの学びであることがわかった。すなわち,本探究学習はスキル・知識への依存性が低く,汎用性のある探究力,すなわち,資質・能力がものをいうことになり,コンピテンシーベースの学びのすがたを具現化するものであることも分かった。 さらにコンピテンシーベースの学びを、学びとして成立させるための「メタ認知」を有効に「省察」に生かすための方略について検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は全体計画を理論・開発・実践・評価の4つのステージにわけ、1年目:理論・開発、2年目:理論・開発・実践、3年目理論・開発・実践・評価の3年計画とした。2年目(今年度)における進捗状況は、理論、開発、実践をクリアし、評価についても一定の実践および分析を始めている。したがって「おおむね順調に進展している」と判断した。以下、各要素についての進捗状況を示す。 ① 理論研究:「新しい能力」「深い学び」「探究学習」の関係を明瞭化するため、現在展開している協働的で自由度の高い探究学習を軸に、MI、messing about(自由試行)、コルトハーヘンの省察モデル、ディープ・アクティブラーニング等の親和性のある理論との整合性を図った。また、海外の先進事例(オランダ)の調査等をふまえ、特に省察について整理し「理論-実践-評価モデル」に位置付けた。② 開発研究:理論研究の成果をもとにして、小・中・高・大の探究学習や教員研修において、探究学習を「理論-実践-評価モデル」とするための評価法(質的研究に基づく)の開発及び試行を行った。③ 実践研究:②の成果を実践に活かし、②にフィードバックを繰り返しながら、評価の方法論を構築し、探究学習における「理論-実践-評価モデル」として整理した。④ 評価研究:「理論-実践-評価モデル」の有効性について実践的な検証を施行した。 「深い学び」における「理論-実践-評価モデルに」において、探究学習を経験学習として捉え、学習としてのメタ的な認識を有効にする「省察」の方略を構築した。それにより探究的経験に埋め込まれた科学的な見方・考え方が顕在化し、概念化・理論化が促されることが分かってきた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究のなかで、新しい時代の学びにおける「メタ認知」の理解が、「深い学び」を実現する上で重要でることを見出した。また、「メタ認知」は日本の教育文化の中でこれまではあまり注目されなかったことにも課題がある。この根拠を主に「集団主義」「経験主義」から理解しているが、別の見方をすれば,日本には能動的な学びの文化が希薄であることも問題となる。このような教育文化のなかで,「メタ認知」やそれを生かした省察は,グローバルな流れの中で強調されている概念であり,日本ではこれから実現していくための方略が必要となる。本研究の過程で、このような問題意識を生成し、克服すべき課題も明瞭となっている。 今後の研究の推進方策としては、「メタ認知」をめぐる課題についてさらに整理し、日本の教育文化に有効な、「深い学び」を実現する方略について実践的に対応していく。そのために、「深い学び」の場となる探究学習について,探究学習と省察を一体化して探究学習の自由度と協働性を保障する視点と取り組みを構築する必要がある。本研究では,探究学習にしても省察にしても日本の教育文化に親和性のある理論と実践として開発してきたものである。これらは近年,多くの教員,多くの教育現場で教員研修を通じて受け入れられ,実践されるようになってきた。これは,日本の教師教育における「理論と実践の往還」のモデルともなり得る大きな可能性を秘めている。 したがって、次なる方略として、「深い学び」を実現するための教師教育(教員養成、教員研修等)の視点から、新たな展開を図る基盤を、3年目(最終年度)に構築することを目指す。
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Causes of Carryover |
次年度の研究遂行に関して若干の余裕を持たすために今年度分を残した。次年度は最終年度になるので、安定した成果を出すために、残した額について有効に使用する予定である。
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