2018 Fiscal Year Research-status Report
高齢者のコミュニケーションの変容と発達:認知症から知恵・英知・孤高に至る総合研究
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18K03094
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
佐藤 眞一 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (40196241)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 心理アセスメント / 認知症 / 孤立・孤独 / 知恵・叡智・孤高 / コミュニケーション機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
高齢者の孤立と・孤独から孤高研究への展開については、一人でいることを好む傾向(preference for solitude)について国際誌に発表するとともに、高齢期前の世代にとっては孤立予備軍の心理特性と位置づけて学会発表を行った。顕在記憶と潜在記憶に関するポジティブ効果およびメタ記憶と精神的健康の関連について論文および学会にて発表した。また、大阪府のワークショップにおいて高齢者の心理的強靱性が高齢期の孤立と孤独の対応戦略として効果を示していることを発表した。 知恵と英知の発達に関しては、知恵の機能的側面と構造的側面に関するレビュー論文および日本人が考える知恵の特徴について文化差との関連から国際学会で発表した。 認知症者のコミュニケーションについては、日常会話式認知機能評価(Conversational Assessment of Neurocognitive Dysfunction; CANDy)に関して、国際アルツハイマー病協会主催の国際会議にて発表し、海外の研究者からも多くの好意的な意見を得ることができた。また、社会的認知に関する基礎的研究成果と共に複数の書籍、論文、学会にて発表することができた。 認知症の事例検討は、毎月1回、2カ所のグループホームにて実施した。中でもアルツハイマー型認知症と診断されていた利用者が、他の利用者とトラブルを起こすことが多いものの一人居室で過ごしている際には落ち着きが見られていることから、改めて精神科医による画像を含む診断を依頼した結果、前頭葉に顕著な障害の認められる血管性認知症であることが判明したため個別的なケア実践を行うことで心身状況が安定した事例について、今後、学会等で発表することを検討した。 一般市民を対象とする死生観に関連する哲学カフェは10回開催することができ、一定の成果が得られため、今後も継続する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
日本人の知恵の機能と構造に関する質問紙調査を予定していたが、前年度に行ったWeb調査結果の解析が遅れたため実施延期となった。この点がやや遅れているとした理由である。しかし、Web調査の解析結果の一部を心理学評論誌の叡智の特集号の論文に採択された。また、国際学会でも発表の機会を得たため、今後、速やかに面接調査と質問紙調査を実施したい。 孤立・孤独から孤高への展開に関する研究については、これまでに孤立と孤独に関する研究は概ね検討できたので、preference for solitudeに関する研究を実施して論文化した。今後はさらに我が国の孤高の概念を検討して、知恵と叡智に関連づけたいと考えている。 認知症高齢者のコミュニケーションに関して、スクリーニング検査として開発した日常会話式認知機能評価CANDyを国際会議で発表することができたが、原因疾患別の評価が必要ということが判明したため、今後の優先課題とした。事例検討はほぼ毎月一回のペースで実施できているので、今後は事例集にまとめたいと考えているところである。 一般市民を対象とする死生観に関連する哲学カフェは10回開催することができ、一定の成果が得られため、今後も継続する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
①一般市民を対象とした哲学カフェの開催による死生観の心理学的課題の把握については、本年度10回開催して一定の成果が得られたため、今後も継続する。 ②知恵と叡智の構造と機能に関しては、すでに実施済みのWeb調査の分析結果に基づいて、若年者に対する面接調査と若年者から高齢者までを対象として日本人的な知恵の構造と機能に関する尺度化を目的とした質問紙調査を実施する。 ③高齢者の孤立・孤独から孤高への展開については、我が国の孤高概念と欧米におけるpreference for solitudeとの異同を検討し、孤高概念について知恵・叡智との関連を検討する。 ④認知症については、日常会話式認知機能評価CANDyの原因疾患別項目評価を医療施設にて実施すると共に短縮版の作成を試みる。また、高齢者福祉施設での認知症者とのコミュニケーションの促進に注目した事例集の作成およびCANDyの利用によるケアの効果に注目した資料を収集する。
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Causes of Carryover |
前年度までに行った知恵の構造と機能に関する中高年面接調査とWeb調査のデータ分析が遅延したため、予定していた若年者面接調査と知恵に関する特定集団を対象にした質問紙調査が実施できなかったことと、医師、心理士、介護士を対象とする日常会話式認知症評価CANDyの項目評価と短縮版の作成が実施できなかったために次年度使用額が生じた。今後、両者を実施すると共に認知症の事例検討を継続することと、CANDyおよび社会的認知課題による認知症高齢者のコミュニケーションに関する研究を行う。また、国内外の学会および論文、書籍等によって成果の発表を行う。
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Research Products
(26 results)