2020 Fiscal Year Research-status Report
高齢者のコミュニケーションの変容と発達:認知症から知恵・英知・孤高に至る総合研究
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18K03094
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
佐藤 眞一 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (40196241)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 孤立・孤独 / 知恵・英知・孤高 / 認知症 / がん患者 / コミニュケーション / サポート |
Outline of Annual Research Achievements |
孤立と・孤独に関しては、がん患者への心理的サポートに関する研究の論文化が進み、国際誌に2編採択された。また、UCLA孤独感尺度第3版の日本語20項目版はすでに我々が原著者の指導の下に翻訳、論文化しているが、本年度は、医療・福祉等の現場で簡便に使用するために、8項目短縮版を作成して学会誌に発表した。 老いの自覚に関する研究では、記憶の誤りを周囲の人々から指摘されることの影響について検討するために、オリジナルに作成した記憶の主観的自信度、記憶の衰え感、記憶の失敗感の3尺度を用いたweb調査データを分析し、2件の学会発表を行った。 知恵と英知の発達に関しては、日本人の知恵概念に関するこれまでの研究を英文誌に発表した。これによって今後の文化比較研究が進展すると期待している。 認知症者のコミュニケーションに関しては、施設介護者のストレスマネジメントへの介入研究の成果を学会誌に発表した。また、認知症者のポジティブ情動活性化、コミュニケーション機能尺度の開発、および日常会話式認知機能評価(CANDy)の項目別の検討について、既存のデータの解析による成果をそれぞれ学会にて発表した。認知症への心理臨床は公認心理師の職務として期待されているが、その一環として出版された公認心理師向けテキストの認知症の章を担当した。認知症の事例検討は、大阪府社会福祉事業団傘下の12の高齢者施設職員と共に、毎月1回、リモートにて継続実施した。今後、事例集として発表する予定である。なお、認知症の周知を目的として出版した新書は多くの読者を獲得し、その後、中国語に翻訳出版された。 本年度は国際心理学会と国際老年学会での研究発表を予定していたが、コロナ禍の影響で大会が延期された。国内学会もすべてがリモート開催となり、予定していた研究展開ができなかった。今後の状況も不透明なため、論文化などによる成果発表を進めていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度はコロナ禍の影響で、高齢者を対象とする調査研究を実施することができず、また、国際学術会議の延期によって発表が叶わず、国内学会大会もすべてがリモートで実施されたため、研究費の執行が予定を大幅に下回った。国内の学会発表や論文執筆のために予定していた会議はいずれもリモート実施になったため、特に旅費予算の執行は予定通りには行えなかった。ただし、知恵と英知に関する国際比較研究のために招聘したノースイースタン・イリノイ大学Takahashi教授の来日を2回予定していたが、一度だけは実現し、今後の研究について話し合うことができた。 予定していた滋賀県立総合病院の協力による認知症の原因疾患別のコミュニケーションの特徴に関する研究は、病院側のコロナ治療体制への移行の影響で再開することができず、現在、数例程度のデータ収集にとどまっている。また、介護現場での認知症の人のコミュニケーションに関しては、認知症高齢者を対象とする当事者研究ができなかったが、事例検討についてはリモート実施によって大阪府社会福祉事業団傘下の施設職員とともに継続実施することができた。今後、事例集を作成できる状況にあり、こちらは予定通り進んでいる。 他の研究についても、ワクチンの接種は進むと考えられるものの、現時点ではコロナ禍の行方が不透明なため、web調査以外の方法による研究の進展を図ることが難しい状況にある。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍の行方が不透明な中、高齢者を対象とする実証的研究がweb調査以外に実施できない場合、健常で、IT技術のある高齢者に研究対象が限られてしまうため、本研究課題の実施には困難さが残ってしまう。特に、認知症者のコミュニケーションに関する研究やがん患者の孤立・孤独を支える研究などは、ほとんど実施の可能性が見えてこない状況である。 知恵・英知・孤高の研究は米国の専門家(ノースイースタン・イリノイ大学Takahashi教授)と連携をとっており、文化差の比較研究も視野に入れていたが、本年度2回予定していた来日のうちの1回を見送らざるを得なかった。しかし、来年度は、課題である文化差研究に向けてリモートによる議論も含めて検討していく予定である。 コロナ禍のこうした状況の中では実施可能な調査研究は限られているため、今後当面はこれまでに収集したデータの分析と発表および文献研究を進めていくことと、リモートやwebによる研究推進をせざるを得ないと予想している。
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Causes of Carryover |
一昨年は、認知症の原因疾患別のコミュニケーションの特徴に関する調査を予定していた滋賀県立総合病院の体制変更の影響で開始が大幅に遅れたことと、その後のコロナ禍によって病院がコロナ感染患者の治療対応のため、さらに本年度も協力継続を延期してきたことにより、調査費用を支出できなかった。また、コロナ禍のため予定していた国内外の学会出張が取り止めとなり、予算計上していた旅費が使用できなかったことなどから調査や学会発表ができず、次年度使用額が発生した。ただし、知恵と英知に関する国際比較研究のために招聘したノースイースタン・イリノイ大学Takahashi教授の来日を2回予定していたが、一度だけは実現し、今後の研究について話し合うことができた。来年度も国際比較研究への協力を求めていく予定である。 次年度もコロナ禍の収束の見通しが不明確のため、認知症やがん等の傷病を有する高齢者を主な対象とする調査研究実施の目途が立たないので、現時点では可能な範囲でのリモートやweb調査に方法を切り替えることや描画による社会的認知課題の作製等の新たな試みに対して支出することも考えている。 また、計上している国内外の旅費の支出も未定であること等に鑑み、再来年度まで本研究を延長することも考えている。
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Research Products
(14 results)