2019 Fiscal Year Research-status Report
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18K03445
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
桂 法称 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (80534594)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 強相関系 / Hubbard模型 / 量子開放系 / マヨラナ・フェルミオン / 可積分系 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度の主な結果として、以下の3つに関するものが挙げられる。(1)散逸のある量子スピン鎖の厳密な解析、(2)Onsager代数を用いた量子多体傷跡状態の構成、(3)遍歴ボゾン系におけるHaldane相。 (1)Lindblad方程式で記述される散逸のある量子スピン鎖の可解模型を2つ構成した。これらの模型は、非エルミートな可積分系へマップすることができるため、緩和時間や相関関数などについての厳密な解析を行うことが可能である。実際にこれらの模型において、非平衡定常状態(NESS)やLiouvillian gap、ある種の相関関数の厳密な表式を、自由フェルミオンの手法やBethe仮設を用いて求めた。
(2)最近、Rydberg原子系の実験において、異様に長時間のあいだ減衰しない秩序状態間の振動が観測されたことから、一部の特異的な励起状態のみが熱化を示さない物理系が注目を集めている。このような、量子多体傷跡状態(quantum many-body scar)と呼ばれる状態の背後にある構造の探求も盛んに行われている。本研究では、Onsager代数の対称性をもつ可積分系に、その可積分性を壊す摂動を加えることで、熱的な状態から完全に分離した部分空間内において周期的運動を繰り返す、量子多体傷跡状態を構成できることを示した。
(3)局在スピン系におけるHaldane相に関する研究は盛んに行われているが、スピン自由度をもつボゾンの遍歴系におけるHaldane相の実現については、あまり議論されていない。本研究では、デルタ鎖と呼ばれる平坦なバンドをもつ格子上のF=1 Bose-Hubbard模型を考えると、ある種の状況下ではHaldane相が存在することを、摂動論・数値計算および可解模型の手法を総合的に用いて示した。また、可解な場合には基底状態や、各種の相関関数の厳密な表式を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の2つの大きなテーマは、1.高い対称性をもつHubbard模型の基底状態、2.相互作用するマヨラナ・フェルミオン系とその応用、である。当該年度は、それぞれについて一定の進展があった。また、当初は想定していなかった、量子多体傷跡状態に関する研究においても大きな進展があった。
テーマ1に関しては、従来はフェルミオン系に関して議論されることが多かった平坦バンドをスピン自由度をもつボゾン系に導入した結果、対称性に保護されたトポロジカル相の典型例であるHaldane相の物理に繋がるという著しい結果を得た。また昨年度から継続しているSU(n) Fermi-Hubbard模型に関する研究も、高次元格子への拡張など着実に進展している。テーマ2に関しては、多体系のLindblad方程式のLiouvillianを、相互作用するマヨラナフェルミオン系の非エルミートハミルトニアンとみなすことで、NESSやLiouvillian gapに関して多くの非自明な結果を確立することができた。
量子多体傷跡状態については、可積分系から出発してこのような状態をもつ非可積分な模型を構成する、というアイデア自体が新奇性のあるものであり、注目を集めている。(この結果は、Physical Review Lettersに掲載され、さらにEditors' suggestionに選ばれている。)今後、異なる代数構造をもつ模型から出発するなどの方向性で進展することも期待される。その他にも、Feynmanのクロックハミルトニアンのエネルギーギャップの、Weylの定理を用いたシンプルな導出をアイルランドのグループと共同で行った。以上を踏まえて、本研究は当初の計画以上に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は次の2つのテーマに関する研究を遂行する。
テーマ1.量子多体傷跡状態(QMBS)をもつ模型の構成:前年度はOnsager代数を用いて、QMBSをもつ模型を無限に構成できることを示した。本年度は、局所ハミルトニアンは量子群の対称性をもつが、大域的にはそれが破れているような一連の模型を考察し、そのような模型におけるQMBSの存在を探る。また、可積分な格子模型で知られている、「境界状態」と呼ばれる状態が、Affleck-Kennedy-Lieb-Tasaki模型などのフラストレーションフリー系の基底状態と同種の行列積の構造をもつことに着目し、QMBS状態をもつ一連の模型の構成法を編み出すことを試みる。その他にも、非対称単純排他過程(ASEP)などの確率過程では良く知られているが、量子系の文脈ではあまり知られていない数理構造などに着目し研究を進める。
テーマ2.BoseおよびFermi Hubbard模型における厳密な結果:前年度、1次元の平坦バンド系におけるスピン自由度をもつボゾンのHaldane相について考察した。特に基底状態があらわに求まる可解な場合は、遍歴系でありながら比較的単純な行列積状態で記述できるという著しい性質があった。この点に着目し、今年度はテンソル積状態を用いて高次元系への拡張を試みる。これがうまく行くと、高次元の対称性に守られたトポロジカル相の具体的かつ非自明な例を提供できる可能性がある。また、SU(n)対称性をもつFermi-Hubbard模型については、一昨年度に得られた結果を高次元へ拡張する。また、SU(2)の場合に知られている、鏡映正値性を用いた議論のSU(n)の場合への拡張などを試みる。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主な理由は、研究協力者が多数参加予定であったデンバーでのAPS March Meetingや名古屋大学での日本物理学会年次大会の開催がキャンセルされたため、当初支出を予定していた旅費などが大幅に抑えられたためである。また、研究の遂行状況を鑑みてワークステーションの購入などを見送ったこともある。当該助成金については、翌年度分と合わせて、ワークステーションの購入などに回す予定である。
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Research Products
(28 results)