2020 Fiscal Year Research-status Report
電子状態の異なる分子状金属酸化物の混晶化による化学ドーピングと物性制御
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18K05060
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
綱島 亮 山口大学, 大学院創成科学研究科, 准教授 (70466431)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ポリオキソメタレート / 電気伝導性 / 固溶体 |
Outline of Annual Research Achievements |
Siや金属酸化物などの原子性結晶では、ホスト化合物中の原子Aと類似の大きさだが電子状態が異なる原子Bをゲストとして結晶中に導入する。また、遷移金属イオンなどの異なる原子価が可能な場合、酸化還元的過程を介して混合原子価状態にできる。また、合金は置換・混合する量が不純物程度を超える点でドーピングとは異なるが類似の化学である。これらはいずれも、電子状態が異なる原子Aと原子Bを任意の組成比xで混合して得られた化合物A1-xBxの物性・機能がAやBの固体とも異なる新しい化合物にする化学反応という点で類似している。原子性固体ではバンドフィリング制御として成功した方法であり、個々の原子AとBは①固体中でランダムに存在、②ホスト原子と電子的な相関が必要で、これにより両者が融合した「シナジー効果」が現れる。加えて③組成比xを連続的に変化させる、ことにより物性のチューニングが達成できる。この点で分子性結晶中の分子は孤立性が強いため②の達成が困難になる。例外として、π分子の軌道の重なりが十分な場合、ドーピングによりπカラムに沿った方向の電気伝導性が劇的に変わる。他にもスピンの有無を活かした磁気希釈など、分子性結晶においてもドーピングは新奇な物性の開拓に成功してきた。 そこで、分子としてのサイズ・形状が同じまま、電子状態を変えられるポリオキソメタレートについて、原子価の異なるクラスターからなる混晶を作製し、組成比に応じてマクロスコピックな性質が変わるような「超原子ドーピング・分子性合金」に着眼した。特に、固相ポリオキソメタレートが機能性材料として近年活躍が見られる固相電解質や電池材料、まだ基礎研究ステージにある分子性量子ドットとしたエレクトロニクス材料として、諸物性値に対する組成比との状態図を作製し、新たな機能性開拓の軸とした物性・機能開拓研究を目指した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに、テトラプロピルアンモニウムを対カチオンとした[PMo(V)Mo(VI)11O40]4-と[SiMo(VI)12O40]4-の混晶を作製し、単結晶一つについて顕微IR、電子顕微鏡下でのEPMA測定、XPS測定を行い、単結晶中で両者が混合していることを確認した。尚、調整時の混合比は、結晶中の組成比と比較的良い精度で対応していた。組成比の異なる単結晶を用いて直流電気伝導度とインピーダンス測定を行い、混合原子価種の増加に伴い導電性の成分が増加する傾向を明らかにした。また、固体31P-NMRでは組成比によるピークシフトが見られたが、結晶溶媒を含んだ試料であるため乾燥状態の差などの課題が残り、詳細は本提案で調査する。特に、結晶溶媒としてDMFを用いると混晶が得られるが、アセトニトリルを用いた場合はそれぞれの結晶が得られる傾向を見出している。 加えて、当該年度では混合時の組成比に対する、結晶中の組成比、電気伝導性、構造に関するデータの再現性を主に収集した。結晶作製時での混合比は、概ね結晶中の組成比と良く対応していることを、UV-VISスペクトルとICP元素分析を用いて定量的に評価した。また、FT-IRスペクトルを単結晶ごとに行い、Si-OとP-O伸縮振動のピークを用いて、PMo12とSiMo12の組成比を定性的に比較することを試みた。同じ混合比で結晶化させて場合でも、20%程度は固溶比がずれている結晶が存在していることがわかった。現在ではより正確に定量分析できるような方法を詮索している。 前年度までに得られていた成果と併せ、①酸化状態の異なるポリオキソメタレートからなる固溶体を作製可能、②組成比は混合比に1:1で概ね対応、③固溶比は均一ではなく分布幅が広い、③バルクな電気伝導性は、PMo12のみでの10^(-12) Scmから、還元されたSiMo12のみでの10^(-9) Scmまで、連続的に固溶比に応じて増加することがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
現在は、FTIRを用いて、より定量的に単結晶中の固溶比を評価することを目指している。これにより、固溶体結晶について結晶成長法と分析法を導くことが可能になり、電子状態の異なるポリオキソメタレートを固溶化するプロセスが得られる。
今後は、POMを人工原子と見立てた新たな固体物性材料の新物質群への発展を狙う。例えば12核のケギン型クラスターは、還元による負電荷側へのシフトを、中心のヘテロ原子をS(VI), P(V), Si(IV), B(III) と変えることで補償できるため、サイズと価数を同じまま電子状態を変えたクラスターが存在でき、混晶化ができる。組成比が不純物レベルであればドーピング、定量的なレベルであれば「合金」に対応する。 これまでは、対カチオンからの影響を考慮していなった。今後、カチオンとしてπ分子系や、電子ドナー、アルカリ金属等様々な対称へと拡げ、ポリオキソメタレートに由来する固溶体独自の構造や電子状態を活かした、電気物性の開拓を進めていきたい。 また、固溶型ポリオキソメタレート結晶を用いた不均一触媒活性についても、固溶比に応じた変化など、新しい展開を詮索していく予定である。
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Causes of Carryover |
予定していた学会がコロナ禍によりオンラインとなった、及び、翌年度に延期されたため旅費にかかる経費が予定よりも少なくなった。2021年度では、実験のための消耗品の経費に充てる予定である。
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Research Products
(8 results)