2019 Fiscal Year Research-status Report
フィリピンの土着ダイズ根粒菌のゲノム多様性と群集構造解析
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18K05376
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
佐伯 雄一 宮崎大学, 農学部, 教授 (50295200)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 昭洋 宮崎大学, 農学部, 准教授 (30452915)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 共生窒素固定 / フィリピン / ダイズ / 根粒菌 / Bradyrhizobium / 親和性 / 熱帯 |
Outline of Annual Research Achievements |
フィリピンの土着ダイズ根粒菌を分離するためにフィリピン各地11ヶ所の土壌を用いて、フィリピンのダイズ品種PSB-SY2を栽培した。Bradyrhizobium属分離株424株の遺伝子多型を16S rRNA遺伝子、16S-23S rRNA遺伝子ITS領域およびrpoB遺伝子について解析し、代表株12株を選抜した。その12株について、熱帯ダイズとしてフィリピンのダイズ2品種(Col1, SY2)、温帯ダイズとしてブラジルのダイズ1品種(IAC-2)および日本のダイズ2品種(Orihime, Akisengoku)について接種試験を行い、フィリピンの気候下で有用な形質を示す根粒菌の選抜を試みた。コントロールとして無接種区とB. diazoefficiens USDA 110株の接種区を調製した。植物グロースチャンバー内で、明期33℃16時間・暗期28℃8時間の条件で28日間栽培を行った。試料採取時にダイズの新鮮重・乾燥重・根粒数・根粒重・葉のSPAD値を測定した。地上部の全窒素含量をケルダール分解インドフェノール法によって行った。 接種試験に用いた全ての根粒菌株のうち、BO-4株以外の株による試験した全てのダイズ品種の根粒着生を確認した。BO-4株は日本のダイズ品種への根粒着生を示さなかった。固定窒素量と根粒重から計算される窒素固定効率について、有用ダイズ根粒菌として知られるUSDA110が最も高い窒素固定効率を示した。フィリピン株IS-2は他の分離株と比較してフィリピンダイズ品種において有意に高い窒素固定効率を示した。対象的にSK-5は日本のダイズ品種との共生で高い窒素固定効率を示した。これらの結果から、フィリピンダイズと日本のダイズに適した接種菌は異なり、それぞれの気候に適したダイズ品種と接種菌を使用することにより高い窒素固定効率を得られることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ではフィリピン各地11ヶ所の土壌から数百株のダイズ根粒菌を分離し、そのゲノムの多様性から熱帯に分布するダイズ根粒菌の特性を解析するに至っており、その代表株の共生窒素固定能の解析から熱帯ダイズと温帯ダイズに適した根粒菌株が異なることを見出している。この結果は、これまで温帯地域で進展してきたダイズ栽培と接種菌を活用した共生窒素固定の利用法について、気候や土壌条件などの環境因子を加味する必要性を強く示している。本研究においては、さらに土壌の理化学性と土壌の利用形態から土着化している根粒菌種を解析し、その生態学的特性との関係から根粒菌の分布に関する解析まで行っており、環境条件による土着化のメカニズムの推定に取り組んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
フィリピンの代表株のうち、宿主によって、窒素固定活性の異なる株を見いだせたため、それらの共生窒素固定に関する特性の解析をすすめる。本研究から、温帯で進展してきたダイズ根粒菌生態の知見に加えて、熱帯地域での新たな環境因子の探索と解析の必要性が示されたため、今後の温暖化等の気候変動による農業環境の推移を見越して、共生窒素固定に影響を与えると考えられる様々な環境因子(温度、湛水、乾燥、塩類集積等)ストレス下における生物の共生窒素固定の有効活用のための技術確立を目指す。特に現時点では、湛水条件と塩類集積条件が共生確立および共生窒素固定に及ぼす影響に関して研究を進めている。
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