2019 Fiscal Year Research-status Report
土壌に蓄積するscyllo-イノシトールリン酸の動態に関わる微生物学的要因の解明
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18K05378
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Research Institution | Institute for Environmental Sciences |
Principal Investigator |
海野 佑介 公益財団法人環境科学技術研究所, 環境影響研究部, 研究員 (00522020)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
尹 永根 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 放射線生物応用研究部, 主任研究員(定常) (50609708)
橋本 洋平 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (80436899)
和崎 淳 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 教授 (00374728)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | イノシトールリン酸資化性細菌 / 土壌リン循環 / 光学異性体 / イノシトールリン酸 / 土壌微生物 / フィチン酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
イノシトール6リン酸(InsP6)は、イノシトール(Ins)の6リン酸エステルであり土壌中リン利用効率を低下させる要因の一つである。土壌中におけるInsP6の主要形態は、2つの光学異性体、myo-InsP6とscyllo-InsP6であると考えられている。リン利用効率改善を目指しmyo-InsP6の動態に関わる微生物学的要因の調査が行われてきた一方で、scyllo-InsP6の動態に関わる微生物学的要因は未解明である。 本研究では1)scyllo-InsP6の分解者はどのような環境条件で機能を果たすのか、2)scyllo-InsP6の分解を担う土壌中の分解者の正体は何か、3)myo-InsP6とscyllo-InsP6では分解機序がどのように異なるのか、という問いに対する答えを導き出すためscyllo-InsP6の動態に関わる微生物学的要因を解明する。 2018年度は1)scyllo-InsP6の分解者がどのような環境条件で機能を果たすのかを明らかにするため、農耕地土壌を対象として、scyllo-InsP6資化性細菌の分布を調査し、土地利用形態や施肥によって資化性細菌の存在割合が異なることを明らかにした。 2019年度は2)scyllo-InsP6の分解を担う土壌中の分解者の正体を明らかにするため簡易同定を行った。さらに3) myo-InsP6とscyllo-InsP6では分解機序がどのように異なるのかを明らかにするため単離菌株の分解様式を調査した。単離菌株の多くはBurkholderia属細菌と近縁であり、myo-InsP6に対しても資化性を示したが、scyllo-InsP6を完全分解できない菌株も存在した。またscyllo-InsP6の分解は他の炭素源を培養液に添加することによって促進された。これらの結果からscyllo-InsP6分解様式の異なる多様な細菌の存在が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究で解明する3つの問いのうち1)scyllo-InsP6の分解者はどのような環境条件で機能を果たすのかについては、農耕地土壌を対象としたscyllo-InsP6資化性細菌の分布調査を行い、myo-InsP6資化性細菌やIns資化性細菌の分布との相違を明らかにすることができた。また植物のリン栄養に密接に関与する根圏における資化性細菌の分布調査についても2019年度に予備実験を行うことができた。 2)scyllo-InsP6の分解を担う土壌中の分解者の正体は何かについては、簡易同定を行うことで単離菌株の多くがBurkholderia属細菌と近縁であることを示すことができた。一方で当初予定していた単離菌株のドラフトゲノムシーケンス解析は2019年度末の新型コロナウィルス感染症の蔓延のため、年度内に実施することができなかった。 3)myo-InsP6とscyllo-InsP6では分解機序がどのように異なるのかについては、農耕地土壌にはscyllo-InsP6分解様式の異なる多様な細菌が存在することを示すことができた。 上記のように、社会情勢により一部の項目を実施することができなかったため、現在までの達成度はやや遅れていると判断した。 上記の成果の一部は、2019年度土壌肥料学会、第50回記念根研究集会、Rhizosphere 5、及び日本土壌肥料学雑誌にて発表を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は1)scyllo-InsP6の分解者はどのような環境条件で機能を果たすのかについては、植物根圏における資化性細菌の分布調査に用いる土壌試料を取得するために、C-11を用いた根圏イメージングを共同研究者の尹博士が所属する量研機構高崎研にて行う計画である。しかし新型コロナウィルス感染症の蔓延のため2020年度上期に根圏イメージングを行うことができなかった。現状では2020年度下期に根圏イメージングを実施するため調整を行なっている。 2)scyllo-InsP6の分解を担う土壌中の分解者の正体は何かについては、ドラフトゲノムシーケンス解析を行う予定であったが新型コロナウィルス感染症の蔓延のため、当初予定していた2019年度に実施することができなかった。2020年6月現在においてもドラフトゲノムシーケンスの外注費用が高止まり続けており、2020年度に下期に本研費で実施可能な金額まで外注費用が下がるかどうか、また他の調査項目と比較して優先すべきかを判断する計画である。 3)myo-InsP6とscyllo-InsP6では分解機序がどのように異なるのかについては、単離菌株レベルでの調査は終了している。2020年度下期に根圏イメージングを行うことができれば植物根圏における分解機序を調査する予定である。
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Causes of Carryover |
当初2019年度に実施予定としていた単離菌株のドラフトゲノムシーケンス解析の外注は2019年度末の新型コロナウィルス感染症の蔓延のため、年度内に実施することができなかった。2020年6月現在においてもドラフトゲノムシーケンスの外注費用が高止まり続けており、2020年度に下期に本研費で実施可能な金額まで外注費用が下がるかどうか、また他の調査項目と比較して優先すべきかを判断する。
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Research Products
(4 results)