2019 Fiscal Year Research-status Report
バニリン生合成系酵素群の解明と国産バニラビーンの開発
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18K05471
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
根岸 紀 筑波大学, 生命環境系, 講師 (00228280)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | バニリン / 生合成 / バニラビーン / キュアリング / 小笠原 |
Outline of Annual Research Achievements |
小笠原父島では、バニラ植物は5月に開花、授粉することによってバニラグリーンビーンが約7ヶ月間生長した後、収穫となる。前年度に引き続きバニラビーンの生長段階及びキュアリング経過中の成分分析と酵素活性測定を行った。成分分析では、バニリン配糖体とバニリンをアセトンで抽出し、HPLCで定量分析した。酵素としては、抽出残渣(アセトンパウダー)中のバニリンの生成(生成経路:フェルラ酸→バニリン→バニリン配糖体→バニリン)に関わる3種類の酵素(フェニルプロパノイド-2,3-ジオキシゲナーゼ、UDPG-トランスフェラーゼ、グルコシダーゼ)の活性を測定した。生長段階におけるバニリン配糖体含量は7ヶ月目には最大になり、2年間の分析結果の平均は約1.8g/100g新鮮重量であった。1年目のキュアリングでは、24週間のバニリン含量の平均は約0.6g/100g新鮮重量で、2年目もキュアリングを継続中である。さらに、アセトンパウダー中の3種類の酵素活性は比較的安定であったが、抽出後、カラムクロマトグラフィーにより精製を進めると、UDPG-トランスフェラーゼは失活したため、現在、精製方法を検討中である。研究1、2年目共に受粉後6ヶ月目のバニラグリーンビーンにラジオアイソトープで標識した14C-バニリンを吸収させ、バニリン配糖体への変換の様子を調べた。その結果、6時間後には平均約80%の高変換率となり、生体中ではUDPG-トランスフェラーゼが効率よく働いていることを明らかにした。 小笠原父島のバニラ植物栽培農家では、収穫したバニラグリーンビーンのキュアリングを実施して販売を開始している。さらに生産販売を拡大するために、栽培・キュアリングを繰り返し行っている。小笠原バニラビーンズを用いた菓子類の試作(外部専門家へ委託)の検討も始め、予備試作の段階では、とても美味しく従来品との差異はないという評価を得ている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
次の研究目的及び実施内容から令和元年度では概ね順調に進展していると考えている。 (1)本研究では、これまでのバニリン生合成に関する研究の成果をもとに、小笠原父島のバニラ植物栽培農家を支援して小笠原産バニラビーンズを生産販売すること及びバニリンの生成に関わる酵素について詳しく調べることを目的に研究開発を始めて2年間、繰り返し実施して成果を得て来た。 (2)バニラ植物栽培農家では、温室以外に野外でも試験的に栽培を開始して栽培面積を増やそうとしている。大学で開発した方法に従ってバニラグリーンビーンのキュアリング方法も確実に行うことができるようになり、製品の販売を開始している。小笠原産バニラビーンズを用いて菓子類の予備試作を行い、従来品と遜色無い味覚を呈することも分かったので、更なる試作及び官能評価も実行出来る段階となった。 (3)研究2年目も1年目同様に、小笠原産のバニラグリーンビーンを用いて生長段階及びキュアリング中の成分分析と酵素活性の測定を経時的に実施し、再現性のある実験結果を得た。 (4)酵素の精製では、UDPG-トランスフェラーゼおよびグルコシダーゼを分離する必要がある。両酵素は、逆の反応(前者はバニリンにグルコースを結合させ、後者は、その結合を切断する)を触媒するが、多量に存在するグルコシダーゼ活性だけでなく、UDPG-トランスフェラーゼ活性の検出も出来ている。バニラビーンのアセトンパウダー中の活性も測定可能であり、酵素活性はより安定であることも分かり、アセトンパウダーは少量でも測定できている。しかし、UDPG-トランスフェラーゼの基質特異性を明らかにすることが重要であり、グルコシダーゼとの分離が必要なことから、さらに、現在では分離精製を検討中である。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度は本研究の最終年度であるため、これまでの実験結果を見直し、さらに繰り返し実験を行って信頼性のある結果を得るとともに、3年間の研究成果をまとめる予定である。すなわち、次のような計画に沿って研究開発を進める。 小笠原父島の亜熱帯農業センターでは、少人数で多作物の栽培上の課題を検討しておりバニラ栽培まで手が回らなく、また、小笠原にバニラ栽培が根付くかも現段階では不確定である。したがって、小笠原において多くの農家へバニラの栽培を普及させてバニラ産業を発展させるためには、先行する栽培農家の成功が必須であることが明確になったので、さらに先行栽培農家の努力が広く認められるように支援したいと考えている。バニラの栽培において小笠原をはじめ他地域でも自然落果が非常に多いことが確認されているので、この改善についても引き続き検討する。それとともに、小笠原バニラビーンズを用いてクッキーやケーキなどの試作を速やかに行い、官能評価を行いたいと考える。その結果をもとに、TOKYO2020に向けて東京都内から販路を開拓し、栽培農家がバニラビーンズを製造し販売を拡大できるよう後押しをする。 バニリン生合成の基礎研究に関しては、バニリンの生成に関わる酵素群、特にUDPG-トランスフェラーゼ及びグルコシダーゼの抽出・部分精製を継続する。グルコシダーゼ活性を含まないUDPG-トランスフェラーゼ酵素溶液を得て基質特異性などの性質を明らかにする予定である。また、バニラビーンのキュアリング方法は確立しているため、特許申請することを考えている。さらに、研究成果を早くまとめて学会発表を行うとともに学術雑誌へ投稿することも予定している。
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Causes of Carryover |
令和元年度中に小笠原産バニラビーンズを用いて菓子類の試作及び官能評価を実施する予定であったが、予備試作を終えた段階で、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて外部委託先専門学校(製菓科)が閉鎖になり、それ以上進めることができなかった。 新型コロナウイルス感染が収束し社会経済活動が復活した後には、これまでの計画どおり、小笠原産バニラビーンズを用いて菓子類の試作及び官能評価(専門家への委託)を実施し、計上した費用を使用する予定である。
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