2019 Fiscal Year Research-status Report
サクラマスにおける生活史多型の遺伝的基盤の解明:代謝関連遺伝子に着目して
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18K05796
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Research Institution | Nippon Veterinary and Life Science University |
Principal Investigator |
山本 俊昭 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 准教授 (30409255)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北西 滋 大分大学, 理工学部, 准教授 (90552456)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 生活史多型 / サクラマス / 次世代シーケンス / RNA発現 / 残留型 / 降海型 / 遺伝的要因 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の対象種であるサクラマスにおいては、顕著に異なる生活史が2つ存在する。ひとつは河川で成長して成熟に達する残留型であり、もうひとつは河川で成長した後に海を回遊し、再び繁殖のために河川に遡上してくる降海型である。近年、次世代シーケンサーを用いて網羅的遺伝子解析を行い、生態的特性に関連する分子的基盤を解明することが盛んに行われている。本研究の対象種であるサケ科魚類においても、生活史に関連する遺伝子を探索することが世界的に始まっている。しかしながら、膨大なデータベースから生活史多型に関わる関連遺伝子を探索することは容易なことでない。申請者はこれまで、幼魚期における成長を制御する要因を調べた結果、基礎代謝量が高い個体ほど成長が良いことを明らかにした。加えて、受精卵の時点で基礎代謝量が親の生活史型によって異なっており、残留型の子供は降海型の子供に比べ基礎代謝量が高いことを明らかにした。そこで今年度は、基礎代謝率に関連する遺伝子に着目して解析することを進めた。まず初めに、対象種であるサクラマスの鰭(末端組織)および心臓(内部組織)からRNA遺伝子を抽出し、次世代シーケンスを用いてゲノムワイドなスクリーニングを行った。サンプリングに用いた時期は、成熟期とスモルト期であった。その結果、スモルト期では海にいくか行かないかが決まる時期であるため、生活史多型にとって重要な時期であると考えられるが、8つの遺伝子座において遺伝子発現量が異なることが示された。一方、繁殖期においては複数の遺伝子発現が観察されたため、成熟に関連する候補遺伝子は相当数あると考えている。現在は、スモルト期に関連する8つの遺伝子がどのような遺伝的領域を司っているのか、さらにはどのような時期に発現量が変化しているのかを調べているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度はスモルト期(3月下旬)にサンプリングした海に降りる降海型と、海に降りない残留型からRNAを抽出した。さらには、繁殖期(9月)の成熟個体と未成熟個体からもRNA抽出し、それら16個体分の次世代シーケンスを行うことが出来た。その結果、スモルト期における生活史分岐に関わる候補遺伝子は10個程度が認められ、発現量の違いを示す遺伝子領域は非常に少ないことが明らかになった。一方、成熟時期における分岐に対し関連する候補遺伝子は現段階では数百が観察されており、更なる絞り込みが必要であると考えらえる。一方、代謝関連遺伝子と生活史分岐との関連性については、現在解析中である。人間では基礎代謝量に関連した遺伝子は60種ほど見つかっており魚類における代謝関連遺伝子との関連性を調べているところである。また、スモルト期における発現量が異なる遺伝子領域において、どの時期に変化が起きているのかを調べるために、スモルト期ではない時期からもサンプリングを行い、ターゲット遺伝子の発現量が通年を通してどのように変化しているのかを調べている。さらには、候補となった遺伝子領域がどのように生活史多型と関連しているのか、そのメカニズムについても検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度においてスモルト期における生活史分岐に対する関連候補遺伝子が限られていることから、それら遺伝子の発現量を様々な季節において今年度調べる予定である。具体的には、生活史多型に関連する候補遺伝子が、いつ、どこで、どの程度発現しているのかを明らかにするため、様々な時期の個体を用いてマイクロアレイおよびRT-PCRによる遺伝子発現解析を行う予定である。ただし、コロナウィルスによる外出自粛を受けてサンプリングが極めて難しい現状であるのも事実である。今後、県の水産試験場などにお願いして、天然ではないが放流起源の個体のサンプルを送ってもらい研究の継続性について対応する予定である。さらには、人工交配を行い、親の影響を調べる予定である。10月にはある程度の外出および調査は可能あると思われるので、野外において新魚を捕獲し、それら個体を用いて人工授精を行うことで、親の違い(残留型として成熟した個体と降海型として成熟した親)による子における候補遺伝子の発現量についても解析する予定である。
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Causes of Carryover |
年度末にサンプリングした個体の遺伝子発現量解析および現地へのサンプリングのために翌年度分とした。
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Research Products
(3 results)