2019 Fiscal Year Research-status Report
新手法:葉内の光合成産物の産生状況を電気的に非破壊かつ連続測定する手法の開発
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18K05896
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
庄野 浩資 岩手大学, 農学部, 准教授 (90235721)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | インピーダンス / 光合成 / 光化学系 / 電子伝達物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は前年度に発見した葉片に光を照射した際にインピーダンスが一時的に減少する現象を詳細に解析した。励起光を1分間照射した後に2分間消灯する処理を光量を段階的に強めつつ6回繰り返し,特定周波数のインピーダンスを1秒毎に測定した(実験1)。その結果,同現象の再現に成功しただけでなく,消灯時に逆に上昇する現象を新たに確認した。時系列データの解析の結果,光照射時と消灯時の挙動は顕著に異なり,事後的な解析で明確に分離可能なことを確認した。さらにこの異なる挙動をもたらす仕組みとして,1つの反応系が光の明暗にそれぞれ逆方向に反応する可能性(1)と,2つの独立した反応系A,Bがあり,Aは光に反応して減少させるが,Bは光と無関係に増大させ,それらがインピーダンスに重複して観察される可能性(2)を考えた。次に両可能性の確認実験を実施した。 実験1と同様に励起光を1分毎に強めるが今回は6分間連続で光照射し,その後12分間連続で消灯した。その結果,光照射時のインピーダンスはやや下がるがほぼ一定で,消灯直前の値は実験1よりも明確に低かった。しかし消灯後,急激に上昇した。その後上昇傾向はやや緩やかになるが最後まで継続した。重要なのは,最終的なインピーダンス値が実験1と同程度であった点である。可能性(1)では消灯直前のインピーダンスが低い分,最終的なインピーダンス値は実験1よりも小さいはずであり結果と矛盾する。一方,可能性(2)では系Aが光照射時に一時的にインピーダンスを下げるが,系Bはその間も別途反応しており消灯後は系Bの反応の結果のみが現れたと理解できる。消灯後にインピーダンスが急激に上昇した現象は,光照射中に低インピーダンス物質が産生され,それが消灯後に速やかに消散したことを示唆しており,極めて興味深い。今後は同物質の同定と反応系A,Bが具体的にいかなる反応系なのかを解明する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度の葉片のインピーダンス特性の環境要因との基本的な関係の検討に続き,本年度は葉片に短時間,光照射した際に生じる新たな現象を発見した。現時点では,光照射時に何らかの低インピーダンス物質が一時的に葉内で産生される可能性,また,インピーダンスを秒単位の間隔で連続的に測定すると光とは全く無関係にインピーダンスを増大させる反応系が活性化する可能性を指摘した。これらは極めて興味深い発見と考えられる。具体的に,前者の低インピーダンス物質としては,消灯時に速やかに消散することを考慮に入れると,光合成の光化学系(1および2)により産生される各種の電子伝達物質,あるいはATP合成に関連するプロトン濃度勾配,さらには膜内外の電荷バランスを保つための各種無機イオン類等が有力と考えられる。いずれにしても,本現象は葉緑体内で起きている光合成の状況をインピーダンスを通じて測定し得ることを示す発見であり,本研究の目的である光合成産物の蓄積状況の測定に繋がる重要な発見と考えられる。 後者の,光とは無関係にインピーダンスを増大させる反応系の正体は,消灯後も持続的にインピーダンスを増大させることを考慮に入れると光合成と直接関係する系ではない可能性もあり,その同定は今後の課題である。しかし結果として,インピーダンスを消灯時に上昇させることにより,光照射時のインピーダンスの一時的減少の挙動がより明確に測定できる事実を考えると測定上は有用であり,測定手法の実用化時に利用可能な現象と考えられる。 以上の様に,本年度の研究では,植物葉片における光とインピーダンスの間の興味深い現象を新たに確認した。これらの知見は本研究の目的の達成に繋がる極めて有用な結果であると考える。 以上から,おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度検討した,葉片に短時間,光照射した際にインピーダンスが一時的に減少する現象,および光に無関係にインピーダンスを増大させる現象の根本的な原因を明らかにすることを目指す。さらに,葉片への長時間の光照射を試み,産生された光合成産物の蓄積状況とインピーダンス特性との関係性を検討する。 そのために,現時点における測定上の課題,例えば,葉片のインピーダンス特性が場所毎にばらつく原因,さらには,成熟状態が同様のサンプル間においてインピーダンス特性がばらつく原因を特定し,対応策を考案する。 さらには,これまでの葉片を対象とした実験では検討できなかった完全な植物体におけるインピーダンス特性の日常的な反応,すなわち,蒸散の概日的な増減がインピーダンス特性にどの様に反映され得るのか,また太陽光の増減がインピーダンスにどの様に反映され得るのか,さらには長時間の太陽光照射の結果生じる光合成産物の蓄積がどの様にインピーダンス特性に影響するのか等を検討する。 以上の実験からは,クロロフィル蛍光とインピーダンスの数百秒間以上の時系列データ,さらには周波数が数100段階の複素インピーダンス特性などで構成される測定一回分の容量が極めて大きい測定データが膨大に蓄積されると予想され,通常の一般的な統計手法による解析では効率的かつ効果的に処理することは困難と考えられる。このため,特にデータ解析においては,最新の機械学習のハードウェアやソフトウェアを駆使することによって作業の効率化ならびに最適化を図る。これにより新たな知見を探り出し,本研究の目的達成を目指す。
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Causes of Carryover |
本年度は人工気象器等の環境制御用機材,さらにはクロロフィル蛍光測定装置やLCRメータ等の測定機材を主な実験用機材として使用し,前年度導入した解析用計算機を用いてデータ解析を行った。実験用機材に関しては,他の研究のために導入したものや,以前より所有し,まだ十分使用可能な古い機材等を他の研究と使用時間がバッティングしないように効率的なスケジュールを組むことで支障なく本研究に使用することができた。このため,本年度は高額な機材を新たに購入する必要が生じなかった。また,種々の薬品や供試材料等の消耗品に関しても,他の研究で使用したものの余剰品等を使用することができたため,本研究の予算を使用する必要が生じなかった。以上の様に,現有機材の効率的な利用と余剰消耗品等の利用によって,本年度の予算を使用しなくとも滞りなく研究を進めることができた。 次年度は,次年度使用額と新年度の助成金をあわせ,まず,蓄積された膨大な測定データを効率的に処理するために,より高性能の計算機の増設や処理ソフトウェアを導入する予定である。さらに必要に応じ,LCRメータ等の測定用機材の増設や,恒温器あるいは人工気象器等の環境制御用機材の導入を検討する。
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