2019 Fiscal Year Research-status Report
Regulatory mechanism of the differentiation of multipotent stem cells in the tailbud and spinal cord development in vertebrate embryos.
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18K06242
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
弥益 恭 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (60230439)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
津田 佐知子 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (80736786)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ゼブラフィッシュ / 多分化能幹細胞 / 尾芽 / 体軸伸長 / 神経管形成 / 神経発生 / Oct4型POU転写因子 / pou5f3 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)前年度に続き、加温誘導性ドミナントネガティブpou5f3遺伝子(hsp-en-pou5f3)を持つtransgenic魚を用い、pou5f3の機能阻害実験を行った。この機能阻害が尾芽形成へ及ぼす影響を体節形成期において分子レベルで解析した結果、pou5f3が多分化能制御遺伝子の発現は抑制する一方、尾芽未分化細胞の維持を行うtbxtaを活性化すること、神経発生遺伝子の発現を活性化するのに対し、中胚葉形成遺伝子は抑制すること、シグナル因子遺伝子fgf8a及びwnt3aを各々活性化、抑制することを示唆した。以上から、尾芽形成と体軸の伸長がpou5f3の制御下にあること、この遺伝子は特に脊髄伸長を推進することを示した。また、作製済みのpou5f3変異体の表現型解析に着手し、ドミナントネガティブ遺伝子による結果と対応する結果を得ている。 (2)各種細胞間シグナル因子(BMP、FGF、Wnt)の尾芽発生での役割を、前年度より各シグナルの阻害剤で処理した胚において検討しており、2019年度は特にBMPシグナルに着目した。結果として、pou5f3及び各種尾芽関連遺伝子の発現にBMPシグナルが関与することを示した。 (3)これまでの研究で、pou5f3が、soxB1遺伝子(sox3、sox19aなど)の発現を制御することにより神経発生を推進すると予想されたことから、sox3変異体とsox19a変異体の系統樹立を行った。予備的な表現型解析の結果、単独変異では特に体軸伸長に異常がないが、2重変異で体軸が伸長不全となることを示した。 (4)一方、CRISPR/Cas9技術を利用してpou5f3遺伝子上流へのegfp遺伝子の相同組換え非依存的ノックインに成功し、実際に発生中の神経管におけるpou5f3発現細胞の視覚化に成功した(Tg(pou5f3:egfp)魚)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)pou5f3に対する誘導性ドミナントネガティブ遺伝子を活用した機能阻害実験により、この遺伝子が尾芽周辺において、多様な役割を持っていることを見いだした。特に、この遺伝子が、多能性維持遺伝子と中胚葉形成遺伝子は抑制する一方で、尾芽未分化細胞の維持と神経発生遺伝子形成の推進を行うという全体像が示された。これらの結果は、体軸の伸長に関連して、特に脊髄の伸長においてpou5f3の重要性を明らかにするものであり、脊髄発生の制御機構の解明のみならず、脊髄の形成不全による疾患の理解にも貢献する成果と考える。 (2)阻害剤を用いた実験で尾部形成における主要シグナル(FGF、Wnt、BMP)の役割を検討し、これらのシグナルが全て尾芽発生に関わることを明らかにした。さらに、上述したpou5f3阻害実験で、pou5f3が各シグナル因子遺伝子の発現制御にも関わることを示しており、尾芽発生、そして体軸・脊髄伸長における細胞間シグナルの役割を明らかにした。 (3)これまでに作製したpou5f3変異体、sox変異体の系統樹立が実現し、予備的表現型解析に着手している。今後、これらの変異体を利用することで、尾芽発生、体軸・脊髄伸長、そしてこれらの発生過程におけるpou5f3の機能解析が、上に述べた機能阻害実験やシグナル阻害剤処理とは別の切り口から可能となったといえる。 (4)CRISPR/Cas9法に基づいたノックイン技術を利用し、pou5f3細胞の蛍光標識が可能なtransgenic魚の作製に成功しており(Tg(pou5f3:egfp)魚)、この細胞が発生過程でどのような挙動をするのかをリアルタイムでの検討を可能にすることができた。pou5f3細胞の胚での挙動は、尾芽からの神経管伸長過程、そしてpou5f3の役割を理解する上で重要であり、大きな成果と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)樹立済みのpou5f3変異体とsoxB1変異体を用い、pou5f3やsoxB1が機能していない状態での尾芽形成、脊髄発生について、各種遺伝子マーカーの発現解析、電子顕微鏡での微細構造解析などにより検討する。soxB1については、これもすでに作製済みの誘導性ドミナントネガティブsox3遺伝子を用いて尾芽発生での役割を検討する。これらにより、尾芽の形成と維持、そして脊髄発生と神経形成において働くpou5f3、soxB1を中心とした遺伝子相互作用、制御ネットワークを理解する。 (2)Tg(pou5f3:egfp)魚において、発生過程におけるpou5f3発現細胞の挙動を共焦点レーザー顕微鏡などで追跡する。尾芽細胞の脊髄細胞への分化とその後の神経細胞への成熟が、脊髄後端にあるpou5f3発現領域で進行すると考えており、その過程を知るためにこの領域にある細胞の体軸伸長における挙動を明らかにする。さらに、pou5f3、そして尾芽細胞維持に関わるtbxtaについて、上流へのCreERT2遺伝子のノックインを行う一方(pou5f3:creERT2、tbxta:CreERT2)、Cre-LoxP系によりtamoxifen依存的に蛍光タンパク質ZsGreen標識が可能な遺伝子導入魚を作製する(CAG-loxP-Stop-loxP:ZsGreen)(進行中)。これらの遺伝子導入魚を用い、pou5f3、sox3を発現する細胞の永久標識、そして発生後期、成体におけるこれらの細胞の動態追跡を行う(GIFM法)。 (3)尾芽幹細胞から脊髄後端への進入、神経前駆細胞への分化、神経前駆細胞から脊髄細胞への成熟、の2つの過程各々について、tbxta、pou5f3、soxB1各々の役割、これらの遺伝子の相互作用について、各遺伝子の強制発現、機能阻害、そして転写制御に関わるプロモーター解析などにより検討を進める。
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Causes of Carryover |
2018年度に予定していた海外出張が困難になり、とりやめとしたために予算消化が全体に遅れたこと、そして2020年2月に参加を予定していた9th Strategic Conference for Fish Investigators-Registrationが直前になり、新型コロナウイルス感染拡大のために中止となったことが主要な原因である。2020年度には予定が遅れているRNA-Seq解析に使用する予定である。
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Research Products
(10 results)