2018 Fiscal Year Research-status Report
魚類におけるPACAPの中枢機能の解析により脊椎動物に普遍的な神経基盤を探る
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18K06310
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
中町 智哉 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 講師 (30433840)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松田 恒平 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 教授 (60222303)
海谷 啓之 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 室長 (40300975)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 組織分布 / 摂食行動 / 記憶学習行動 / 受容体機能解析 / ゼブラフィッシュ / PACAP |
Outline of Annual Research Achievements |
下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)は進化的に構造がほとんど変化せずにヒトまで残っている神経伝達物質であり、神経保護作用、摂食行動調節作用、記憶学習増強作用、血圧低下作用など多くの重要な生理機能を持つことが明らかになっている。PACAPは腔腸であるヒドラにおいて既に存在しており、遺伝子重複やエクソン重複などを繰り返しながら、哺乳類ではセクレチンやグルカゴンなどの10以上の遺伝子に分子進化したことが明らかになっている。ゼブラフィッシュを含む魚類では2つのPACAP(PACAP1およびPACAP2)および2つのPACAP受容体(PAC1aRおよびPAC1bR)が存在する。しかし、その機能や分布の違いは明らかになっておらず、もしかすると魚類では2つのPACAP、PAC1Rが既に異なる性質を持ち、別の因子として分子進化が起きている可能性がある。しかし、これまでにゼブラフィッシュの持つ2つのPACAPおよびPAC1Rの相違について解析した研究はほとんど存在しない。 そこで本年はゼブラフィッシュの持つ2つのPACAPおよびPAC1Rの組織分布の観察と受容体の機能解析を中心として研究を進めた。組織分布については、PACAP2またはPACAP1を特異的に認識する抗体を作成し、免疫染色法により2つのPACAPの分布を明らかにした。さらに、CHO細胞にPAC1Rを強制発現させ、PACAPを添加することによるシグナル応答を評価した。免疫染色の結果、PACAP1とPACAP2の脳内分布にかなりの相違点がみられた。さらに、CHO細胞を用いた研究により、ゼブラフィッシュの持つ2種類のPACAPおよびPAC1Rがそれぞれ機能的であることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、まずPACAP1とPACAP2の組織分布をそれぞれのPACAPを特異的に認識する抗体を作成して免疫染色法により観察した。PACAP1の免疫染色の結果、PACAP1免疫陽性反応は脳の広い範囲の観察され、特に終脳、視床下部、内側縦束核、橋、迷走葉などに陽性細胞が観察された。この分布から、PACAP1は主に遊泳運動や摂食行動などの生得的行動、味覚の制御に関わっている可能性が考えられる。一方、PACAP2免疫陽性反応は終脳、視床下部、小脳に観察された。しかし、陽性細胞が観察されなかったため、軸索輸送を止めるコルヒチンの脳室内投与を行い、免疫染色を行ったところ、終脳と視床下部にPACAP2免疫陽性細胞体が観察された。この分布から、PACAP2は主に記憶学習行動や摂食行動などの生得的行動、運動機能などに関わる可能性が示唆された。これらPACAP1やPACAP2の免疫陽性反応は、抗原吸収試験により消失したことから、上記の免疫染色の結果が特異的であることが確認できた。以上の結果から、PACAP1とPACAP2は脳内分布が異なることが明らかになり、ゼブラフィッシュのPACAP2の脳内分布に関する結果に関しては国際誌Peptidesに掲載された。 次に、分担研究者の海谷と共に行ったCHO細胞を用いた実験では、2種のゼブラフィッシュPAC1受容体(PAC1aRまたはPAC1bR)をそれぞれ強制発現させたCHO細胞に対して2種のゼブラフィッシュPACAP(PACAP1またはPACAP2)を添加し、その下流のシグナルとして細胞内カルシウムイオンとcAMPレベルの測定を行った。その結果、2種のPACAPともにPAC1Rに作用して2種類のシグナル伝達経路を活性化させることが明らかになった。この結果はゼブラフィッシュの持つPACAPおよびPAC1Rが機能的であることを示唆している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は2種類のPACAPおよびPAC1Rの脳内局在を明らかにするため、in situ hybridization法によりそれぞれの脳内局在と分布相関を明らかにしていく予定である。さらに、ストレスモデルや脳梗塞モデルなど病態・疾患モデルの確立や、記憶学習および情動行動の評価系の構築も並行して進めており、それらのモデル・評価系が確立できた後に、内在性PACAPまたはPAC1Rの発現動態や、PACAP投与による影響などを評価していく予定である。CHO細胞の実験に関しては、より詳細な解析を進めるとともに、受容体アンタゴニストの添加実験なども行う予定である。
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Causes of Carryover |
次年度以降のin situ hybridization実験系の立ち上げ費用としての予算として確保した。
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Research Products
(9 results)