2019 Fiscal Year Research-status Report
Color vision mechanisms based on color opponent cells
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18K06342
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Research Institution | Tokyo University of Pharmacy and Life Science |
Principal Investigator |
関 洋一 東京薬科大学, 生命科学部, 助教 (30634472)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 色覚 / ショウジョウバエ / パッチクランプ / 電気生理 / 反対色性 / 色識別 / 光受容体 |
Outline of Annual Research Achievements |
色覚生成のためには、異なる光受容細胞からの情報を比較する反対色細胞の存在が重要である。最近、ショウジョウバエにおいて、光受容細胞の軸索末端における反対色応答の形成機構が報告された。しかし、光受容細胞からの情報が、初期視覚中枢での処理を経て、どのように中枢で表現されているかはよくわかっていない。本研究では、遺伝学的手法が豊富で、脊椎動物とも多くの機能構造的共通性を持つショウジョウバエの視覚系を用い、電気生理学的および行動学的手法を適用することで、色覚生成機構の神経基盤を解明することを目的とした。 これまでの研究では、in vivo ホールセルパッチクランプ法を高次視覚ニューロンに適用し、波長応答特性の記録を行った。多くのニューロンは広帯域の波長の光に興奮性の応答を示し、サルやミツバチなどで見つかっている典型的な反対色応答を示すニューロンはみられなかった。しかし、細胞集団レベルでは、紫外領域(300-375nm)と中波長領域(425-575nm)の波長の分離が確認された。これらの結果を、ショウジョウバエにおける高次視覚ニューロンの波長応答特性に関する最初の報告として発表した。 さらに、パッチクランプ法では困難であった標的特異的な細胞集団からの応答の計測として、in vivo カルシウムイメージング法を確立し、色覚学習に関わるgd-ケニオン細胞からの波長応答特性の記録に成功した。また、光受容体と色識別との関係を解明するため、熱忌避による連合学習実験系を用い、光の波長と強さの異なる様々な組合せで識別実験を行った。また、光受容体変異体を用いて、野生型との違いを調べた。これらの結果を各光受容体の光子補足量に基づく識別モデルと比較し、各光受容体の光の波長および輝度の識別に対する寄与について検討を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ホールセルパッチクランプ法を用いて光波長応答特性をショウジョウバエのin vivoで記録するための方法を確立し、高次視覚ニューロンから記録を行った。光刺激に対する発火パターンの違いから、興奮ON-OFF、興奮ON、抑制の3つの応答タイプに分類した。さらに、波長応答特性について解析した結果、特定の波長で興奮、別の波長で抑制されるような典型的な反対色応答はみられず、広帯域の波長の光に興奮性の応答を示すものが多かった。主成分分析を用い、細胞集団全体で波長応答の違いを分析したところ、紫外領域と中波長領域の波長で分離がみられた。いくつかのニューロンはロビュラやロビュラプレートのニューロンであることが形態的に同定された。これらの結果をまとめ、ショウジョウバエにおける高次視覚ニューロンの波長応答特性として報告した(Yonekura et al. 2020)。 また、ホールセルパッチクランプ法の適用が難しい細胞体が小さなニューロン群を対象に、カルシウムイメージング法による波長応答特性の計測を行った。メダラにある二次ニューロンからは、光刺激に対する明確な応答の計測ができなかったが、先行研究において色識別に関与が報告されているgd-ケニオン細胞の応答の計測に成功した。紫外領域の光に強い応答がみられ、今後より詳細な波長応答特性の分析を進めていく。 ショウジョウバエの色識別能および波長識別における光の強度との関係を明らかにするため、熱忌避学習実験を用いた色識別に関する行動実験データの取得を進めた。6種類の異なる波長のLEDの組み合わせによる、光の波長と強度の違いに対する識別能を評価した。野生型とRh1光受容体変異体を用い結果を比較した。さらに、各光受容体の光子捕捉量を求め、いくつかの識別モデルと行動実験の結果を比較し、各光受容体の色識別における寄与について考察している。
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Strategy for Future Research Activity |
順調に成果は出ているものの、当初計画していた反対色応答を含む波長応答特性の形成機構を詳細に神経回路レベルで解明するためには、光受容細胞の反対色応答と高次ニューロンの広帯域な応答特性をつなぐ、視覚の2次、3次中枢であるメダラやロビュラでの情報修飾機構の解明が必要である。メダラ領域のニューロンに対するパッチクランプ法の適用には難しさがあり、カルシシウムイメージング法でも補完できなかった。二次ニューロンはヒスタミンを神経伝達物質として受容し、光刺激に対し抑制性の応答を示す可能性がある。この抑制応答を電気生理学的にとらえるために、パッチクランプ法による小細胞に対応した計測技術の改良を進める。 また、これまでの結果から、ショウジョウバエでの色覚情報表現は、霊長類やミツバチでみられる反対色細胞を基盤とした色覚情報処理とは少し異なる可能性が示唆される。行動実験より明らかにした波長識別能や各光受容体の寄与の結果と電気生理実験で得られた高次視覚ニューロンやgd-ケニオン細胞の応答特性から、色覚情報の脳内表現について仮説を提唱する。
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Causes of Carryover |
ほぼ計画通り使用したが、小額の残額があったので、次年度の旅費や論文出版費用に充てるため繰り越した。
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