2019 Fiscal Year Research-status Report
気候変動による植物の絶滅ーメタセコイアの化石と現生種の形態・生態・生理から探る
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18K06403
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Research Institution | Administrative Agency for Osaka City Museums |
Principal Investigator |
塚腰 実 地方独立行政法人大阪市博物館機構(大阪市立美術館、大阪市立自然史博物館、大阪市立東洋陶磁美術館、大阪, 大阪市立自然史博物館, 外来研究員 (80250257)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
厚井 聡 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 講師 (60470019)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | メタセコイア / 実生 |
Outline of Annual Research Achievements |
メタセコイア属が日本列島から絶滅した要因として、「冬季の気温低下、夏の温度上昇、海水準変動による生育地の移動の圧力、低地の減少、乾燥化」などの考えが示されているが、明確な要因は不明である。メタセコイア属が日本列島から消滅した原因の鍵を探るために、現生メタセコイアの実生の生育について、大阪市立大学理学部附属植物園(以下、大阪市大植物園)、神戸市立森林植物園、香川県の1950年代の植林地、郡上八幡自然園で観察・実験を行った。 実生の生育には、水、光、土壌、気温などの要因が関わると予想される。これまでの調査で、メタセコイアは植栽すると様々な自然環境で大木となって生育するが、実生が生育し幼木に成長している場所は限定されている。その要因として、(1)実生が芽生え生育する時期に十分な水分が供給されること、(2)実生の根が地面に達し、継続的に水分や栄養分を吸収できること、の2つの条件が必要なためと考えられる。 郡上八幡自然園と大阪市大植物園には、(1)と(2)の条件を満たす環境はあるが、実生の生育状況は異なり、郡上八幡自然園の方が活発な繁殖状況にある。この生育状況の違いが、環境条件の差異なのか、個体群の遺伝的な差異なのかを明らかにする必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.メタセコイアの実生の生態について、以下の観察結果を得た。(1)水害の影響も考慮しなければならないが、水分条件が十分でも実生が残存できなかった(大阪市大植物園)。(2)乾燥しているが多くの実生が越夏・越冬している(神戸市立森林植物園)。(3)前年の台風で裸地が出現し、実生の生育に適していると予想されたが、実生は多く発生しなかった(大阪市大植物園)。これまでの調査から、メタセコイアは植栽すると様々な自然環境で大木となるが、実生が生育し幼木に成長している場所は限定されている。その要因として「実生が芽生える時期に十分な水分が供給されること」と「実生の根が地面に達し、継続的に水分や栄養分を吸収できること」の2つの条件が必要と考えられていた。しかし、神戸市立森林植物園は、水分条件が不十分であるが、実生が生育している。また、大阪市大植物園では水分条件が十分であるにも関わらず、実生が残存できなかった。 2.郡上八幡自然園と大阪市大植物園での生育状況の違いが、環境条件なのか生育するメタセコイアの遺伝的な特性が異なるのかを明らかにする必要があり、2019年度始めに栽培実験を実施した。しかし、郡上八幡自然園の種子が除草剤で汚染されており再実験が必要となった。 3.メタセコイアの葉化石の気孔サイズ、気孔密度の時代変化を明らかにするために、古琵琶湖層群(約270万年前、400万年前)のメタセコイア葉化石について、表皮細胞を取り出すことを試みたが、化石の保存状態が悪く、薬品処理に耐えられる表皮は残存していなかった。 4.メタセコイアの原生地である中国湖北省において、メタセコイアの実生の生育地の予察的な調査を行った。その結果、道路建設工事により裸地となった場所で多数の実生・幼植物が観察された。この調査結果は、メタセコイアが先駆植物であることを支持する。
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Strategy for Future Research Activity |
1.神戸市立森林植物園では、草刈りを停止した状態にすると、実生が生育し越夏・越冬している。その後の生育を観察する。また、土壌水分条件やその他の気象条件の継続的な測定を試み、環境が似ている大阪市大植物園と比較して、メタセコイア実生の生育に必要な条件を探索する。 2.郡上八幡自然園と大阪市大植物園での生育状況の違いが、環境条件なのか生育するメタセコイアの遺伝的な生態が異なるのかを明らかにするために、再度、以下の栽培実験を行う。(1)両地域の種子の発芽率を調べる、(2)大阪市大植物園と郡上八幡自然園の種子を郡上八幡自然園で播き、その生育状態を比較する。 3.メタセコイアが地球上で唯一生き残った、中国湖北省のメタセコイア原生地の実生の生育状況を調査し、日本の状況と比較する。とくに、2019年度の予備調査で多数の実生を確認した生育環境において、実生の生育状況を確認する。 4.化石調査に関しては、調査範囲を拡大して古琵琶湖層群と大阪層群における保存の良い葉化石の採集を試みる。
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Causes of Carryover |
2019年度に研究分担者の厚井が、中国湖北省のメタセコイア原生地の下見調査を行なったが、塚腰は日程の関係で調査に参加できなかったので、残額が生じた。2020年度に本調査を行う予定であるが、新型肺炎の流行で、調査できない可能性がある。その場合、科研費の研究期間の延長を考えたい。
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