2020 Fiscal Year Research-status Report
気候変動による植物の絶滅ーメタセコイアの化石と現生種の形態・生態・生理から探る
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18K06403
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Research Institution | Administrative Agency for Osaka City Museums |
Principal Investigator |
塚腰 実 地方独立行政法人大阪市博物館機構(大阪市立美術館、大阪市立自然史博物館、大阪市立東洋陶磁美術館、大阪, 大阪市立自然史博物館, 外来研究員 (80250257)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
厚井 聡 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (60470019)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | メタセコイア / 実生 |
Outline of Annual Research Achievements |
メタセコイア属が日本列島から絶滅した要因として、「冬季の気温低下、夏の温度上昇、海水準変動による生育地の移動の圧力、低地の減少、乾燥化」などの考えが示されているが、明確な要因は不明である。メタセコイア属が日本列島から消滅した原因の鍵を探るために、以下の実験・観察・調査を行った。(1)神戸市立森林植物園における実生の生育状況:メタセコイア林内に設定した、1平方メートル調査区において継続調査を行った。2018年に芽生えた実生が減少はしているが、2020年11月の時点で11個体(58%)が残存しており、越冬芽をつけていた。一方、2020年度に芽生えた実生は調査区内には無かった。(2)岐阜県郡上市、郡上八幡自然園での実生の生育状況:斜面高3.5 m、幅18 mの、自然繁殖している調査区で継続調査を行った。2018年に確認された実生および幼植物、94個体中89個体が生存していた。また、2019年に芽生えた38個体の実生は、28個体生存していた。2020年の実生は、10月31日の時点で38個体が生存していた。(3)大阪市立大学附属植物園(以下、大阪市大植物園)と郡上八幡自然園の種子の発芽生育実験:郡上八幡自然園の種子の発芽率は46.6%、大阪市大植物園の種子は5.8%であった。(4)2020年3月に大阪市大植物園と郡上八幡自然園の種子(各204個)を郡上八幡自然園の裸地に播種し、生育を継続観察:5月17日の時点で、大阪市大植物園の種子は204個のうち、12個体が発芽(7.4%)、郡上八幡自然園の種子は、204個のうち、59個体が発芽(28.9%)した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
メタセコイアの実生の生態についての観察と調査の結果から、以下を考察している。(1)神戸市森林植物園で実生が3年に渡って生存している。大阪府内の長居植物園や大阪市大植物園の調査区では見られなかった生育状況である。その要因には、標高が高いため平地よりは冷涼な気候が予想される。2020年の実生が見られなかったのは、調査区内は草刈りを停止しているので、ササ類が成長し、日照条件が悪くなった事、落ち葉が堆積し地面に根を下ろせなかった事が考えられる。(2)岐阜県郡上市の郡上八幡自然園では、多くの実生が生育している。大阪市大植物園の種子と郡上八幡自然園の種子の発芽率を比較すると、圧倒的に郡上八幡自然園の種子の発芽率が高く、個体群の遺伝的な差異または親個体の生育環境の発芽率への影響の可能性が考えられる。また、郡上八幡自然園は、大阪平野に比べると冷涼で長良川沿いの斜面の下に位置し、水分条件にも恵まれている。この遺伝的要因と気候的要因のため、郡上八幡自然園では多くの実生が形成され、自然繁殖した林が成立していると考えられる。この遺伝的な差異は、大阪市大植物園と郡上八幡自然園の種子の、郡上八幡自然園の裸地への播種実験でも裏付けられた。(3)メタセコイアの原生地である中国湖北省の実生の生育状況の調査を行い、日本でのメタセコイアの実生の生育状況とを比較する予定であったが、新型肺炎の影響で調査に行く事ができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)神戸市立森林植物園の調査区では、継続して調査を行い、2018年からの実生の生育を記録する。(2)郡上八幡自然園での大阪市大植物園と郡上八幡自然園の種子の播種実験を継続的に観察し記録する。(3)2020年度は進められなかったメタセコイア化石の葉の表皮細胞を得るために、調査範囲を拡大して東海層群、古琵琶湖層群、大阪層群に置いて保存の良い葉化石の採集を試みる。(4)中国のメタセコイアの原生地の調査が実行できない場合は、国内の生態調査、化石調査を重点的に行う方向にシフトする。(5)3年間に行った国内におけるメタセコイアの実生調査および播種実験の結果の研究発表と論文作成を行う。
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Causes of Carryover |
2020年度に、メタセコイアの原生地である中国湖北省において、メタセコイアの実生の生育状況の調査を行う予定であったが、新型肺炎の影響で調査を行えず、研究期間の延長を行ったため、残額が生じた。2021年4月末の新型肺炎の感染状況を考えると、2021年度も中国調査ができない可能性が高い。2021年6月末の新型肺炎の状況で、2021年度の調査を断念し、中国調査を行うために再度、研究期間を延長して、中国調査の可能性を追求するか、国内調査を重点的に行う方向にシフトするかを決定する。
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