2019 Fiscal Year Research-status Report
ヤドカリの殻交換は捕食リスクに便乗した感覚トラップにより促進される?
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18K06416
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Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
古賀 庸憲 和歌山大学, 教育学部, 教授 (50324984)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉野 健児 国立水俣病総合研究センター, その他部局等, 主任研究員 (40380290)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | コミュニケーション / シグナル / 騙し / ヤドカリ / 殻を巡る闘争行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヤドカリ2個体間の殻交換は仕掛ける側が利益を得るための闘争行動である。仕掛ける個体が鉗脚や歩脚で相手の殻を掴み、自分の殻を短い間隔で繰り返し相手の殻に数秒間打ち付ける打突行動が繰り返され、相手は耐えきれなくなると出てくる。すると仕掛ける側は相手の殻を精査し気に入ればその殻に移動するが、一度入ってみて気に入らなければ元の殻に戻ったりもするため、追い出した相手が元の殻に入らないよう邪魔をする。その間、貝殻を出た個体は柔らかく無防備な腹部を曝すことになる。殻の打突は身体に直接ダメージを与える攻撃ではないのに、攻撃された個体はなぜ自分から出てきてしまうのか? 打突により殻に与えられる衝撃が捕食者の貝殻破砕の際の衝撃と類似しており、防御個体が捕食リスクと誤認して殻から出てくる、という捕食リスクへの応答に便乗した、攻撃する側による感覚トラップであるという仮説を私は考えた。そこで、実験的に捕食リスクを認知させたヤドカリ個体が、打突により早く降参するかどうかを調べることにより、この仮説の検証を試みている。 2018年度の実験において、同種のヤドカリを捕食したイシガニと仕切り越しに同じ水槽に入れられたテナガツノヤドカリ(以下、テナガ)とユビナガホンヤドカリ(以下、ユビナガ)は、どちらもコントロールと比べ1日目から行動が異なった。よって、これら2種とも1日で捕食リスクを認識していると考えられた。テナガの方の結果を2019年の国際甲殻類学会で発表した。 殻を巡る闘争について日本では、近縁種ホンヤドカリでは記載があるものの、ユビナガやテナガでは研究例がないので、2018~2019年度に予備実験を行った。その結果、テナガでは実験観察下で殻を巡る闘争が起こりにくかったため、2019年にユビナガを用いて実験条件下での闘争の実験観察を行った。しかし、殻交換に至った例数が少なく、仮説の検証には至っていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
実験下で殻交換の観察例数を増やすためには、殻交換を仕掛ける側の個体に動機付けを行い、殻を巡る闘争を誘発させる必要がある。海外で盛んに研究されているPagurus bernhardusおよび日本で殻交換の研究報告のあるホンヤドカリP. filholiでも、人為的に窮屈なサイズの殻に強制的に移動させる等して攻撃の動機付けを行っている。これら2種はユビナガとは同属の近縁種である。今回それら先行研究を模倣し実験を行なっているものの、動機付けした個体がホンヤドカリのようには攻撃を仕掛けなかったり、攻撃して闘争がエスカレートしても殻交換には至りにくかったりして、なかなか上手く行かず試行錯誤を繰り返している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の観察例数が少なかったユビナガでの実験を、条件を更に工夫しつつ継続し、効果的な実験観察を試みる。今年度は予備実験のみで終わっていたテナガについても条件を工夫して実験観察を試みる。 国内生息種では貝殻闘争について研究報告のある唯一の種、ホンヤドカリでの実験も模索したい。ホンヤドカリの先行研究では、捕食リスクに反応して利用する貝殻の種の好みが変わることなどが既知であるため、テナガやユビナガと同様に、今回の仮説検証の材料として使用できると考えられる。調査実験に適した本種の個体群を近くで見つけられるかが課題となる。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の流行のため、参加を予定していた学会が中止となり、旅費が使用できなかった。その学会において研究分担者との打ち合わせも行うつもりであったが、それができなかったので、次年度改めて打ち合わせを行うこととし、打ち合わせ旅費として使用する。
また、論文執筆が遅れており、英文校閲費などを使用しなかった。次年度は執筆を完成させ、英文校閲費やオープンアクセス費として使用する。
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Research Products
(2 results)