2019 Fiscal Year Research-status Report
イリオモテヤマネコの生存を支える西表島の食物網構造の解明
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18K06425
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Research Institution | Kitakyushu Museum of Natural History and Human History |
Principal Investigator |
中西 希 北九州市立自然史・歴史博物館, 自然史課, 学芸員 (40452966)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松井 晋 東海大学, 生物学部, 講師 (20727292)
木寺 法子 岡山理科大学, 生物地球学部, 講師 (30720685)
中本 敦 岡山理科大学, 理学部, 講師 (80548339)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 食物ネットワーク / 島嶼 / 食性 / 胃内容物 / 交通事故死体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、琉球列島で唯一の食肉目であるイリオモテヤマネコが生息する西表島において、交通事故死亡個体の胃内容物を用いることによって、各種の「食べる・食べられる」の関係性を量的に明らかにする。また、これらの関係性から食物ネットワークを構築し、小島嶼としては極めて珍しい豊かな生物多様性を維持し、イリオモテヤマネコの生存を可能にしている複雑な西表島生態系の概要を明らかにすることを目的としている。 これまで陸棲脊椎動物の捕食-被食関係は、ある種に注目しその食性を調べる一方向のつながりを示すものがほとんどであり、多種の食性研究を統合し地域内の食物網を記述した例はあるが、その量的評価を行った例はほとんど無い。本研究の特徴は、「食べる・食べられる」の関係性に「どのくらい」という量的な関係性の情報を組み込むことによって、島嶼生態系における生物間のより具体的な関係性を明らかにすることを目指す。 中心対象種は西表島の生態系の主要部分を担い、個体数が比較的多い陸棲脊椎動物とし、イリオモテヤマネコ、カンムリワシ、ヤエヤマオオコウモリ、シロハラクイナ、サキシマハブ、サキシママダラ、サキシマヌマガエルを選定し、各種の胃内容物の収集と分析、データ解析を進めている。非侵襲的に胃内容物を入手できるサキシマヌマガエルについては、生体を捕獲し吐き戻し法を用いてサンプル収集を行った。また、交通事故死亡例が稀なヤエヤマオオコウモリについては、採餌行動モニタリングにより餌種と単位時間あたりの摂食量の調査を試みたが、方法の再検討が必要な状況である。 これまでにイリオモテヤマネコ、シロハラクイナ、サキシママダラの胃内容物サンプルの収集は完了しており、分析を進めている。解析のためのサンプル数が不足している種は捕食種によって、胃内容物内の被食種の種同定が困難な場合もあり、対象サンプルの収集も並行して進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度は2018年度に引き続き、冷凍保存している交通事故死体の胃内容物解析と新たなサンプル収集を行った。研究代表者及び分担者共に野外調査を実施することができ、地域住民の協力も得られたため、交通事故死体の回収は順調に行われている。 イリオモテヤマネコの胃内容物については、2000年から環境省が継続して収集保存しているものを提供いただき、すでに十分な数のサンプルが蓄積されており分析を進めている。また、交通事故が頻発している種(シロハラクイナ、サキシマハブ、サキシママダラ)については、2018年度に引き続き分析を行った。 西表島において肉食性爬虫類、鳥類、哺乳類の重要な餌資源となっているサキシマヌマガエルの胃内容物は、個体を捕獲し吐き戻し法による収集を行った。春季には空胃個体が多く十分な数のサンプル取得には時間と労力が必要であったが、夏季には空胃率が低くなり比較的容易にサンプルを収集することができた。 胃内容物は未消化な状態であれば比較的種同定が容易であるが、そ嚢で食物を粉砕する鳥類や体サイズが小さい両生類では種同定が困難な場合が多い。このような胃内容物の種同定には、フィールドで同定のための対象サンプルを収集することが重要であり、解析と並行して進めている。 交通事故遭遇率は低いが、イリオモテヤマネコにとって重要な餌動物と位置づけられているヤエヤマオオコウモリについて、自動撮影カメラによる採餌行動の記録を試みた。ヤエヤマオオコウモリの餌植物の結実時期に樹上にカメラを設置したが、強い直射日光によるセンサーの誤作動と台風襲来により、十分なデータを得ることはできなかった。以上により、2019年度はやや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、1)各種の食性分析結果を統合することによって被食-捕食関係を明らかにし、西表島における食物ネットワークを構築する、2)被食者として主要な種について、エネルギー量、炭素・窒素量を分析測定し、各捕食者における1日あたりに消費する餌種別個体数及び各値を算出し、量的に食物ネットワークを明らかにする、という大きく2つの目標を設定していた。 これまでの進捗状況により、解析のための胃内容物サンプル数が不足している種(サキシマハブやサキシマヌマガエルなど)の交通事故死体・サンプル収集及び分析、胃内容物の種同定のための対象サンプル収集、ヤエヤマオオコウモリの採餌行動のモニタリング方法の変更と再調査については未完了であるため実施する必要がある。 しかし、2020年5月現在、新型コロナウイルス蔓延防止のための緊急事態措置の発令や県をまたいでの不要・不急の移動自粛要請により、代表者・分担者共に西表島に渡航できない状況である。この状況がいつまで継続するのか予測がつかないため、上記の調査と2020年度に実施する計画であった被食種のエネルギー量、炭素・窒素量分析測定のための、生体サンプル収集は実施の可能性が不透明な状況である。西表島への渡航が可能な状況になるまでは、胃内容物の分析と解析を行い、各種の食性をまとめて学術論文として発表する準備を行うこととする。状況が改善された場合には、速やかにフィールド調査を再開し、計画を遂行することとする。
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Causes of Carryover |
2019年4月に代表者が異動のため所属が変わり、他の業務の都合により当初計画していたよりも西表島への渡航する期間が短くなったため、次年度使用額が生じた。2020年度は、被食種ごとのエネルギー量、炭素・窒素量分析測定を行うために、西表島において被食種のサンプリングを行う予定である。また、2019年度までの試行錯誤の上、再調査が必要となったヤエヤマオオコウモリの採餌行動調査のためにも、餌植物の結実期に渡航するために旅費を使用する計画である。その他の経費は、上述した被食種のエネルギー量、炭素・窒素量分析測定の委託費とする予定である。
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