2018 Fiscal Year Research-status Report
iPS細胞由来の再生T細胞と遺伝子改変サルを用いたがん免疫細胞療法の開発
Project/Area Number |
18K07171
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Research Institution | Shiga University of Medical Science |
Principal Investigator |
縣 保年 滋賀医科大学, 医学部, 教授 (60263141)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ゲノム編集 / CRISPR/Cas9 / カセット交換法 RMCE / がん抗原 / T細胞受容体(TCR) / iPS細胞 / カニクイザル / がんモデル動物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、がん抗原特異的なT細胞受容体(TCR)遺伝子を、ゲノム編集とカセット交換法を用いて、ヒトiPS細胞の内在性TCR遺伝子座へノックインすることを試みた。まず実験系を確立するために、ヒトT細胞白血病株Jurkat細胞を用いて実験を行い、導入したTCRを正しく発現させることに成功した。そこでiPS細胞でも同様に実験を行った結果、薬剤耐性遺伝子カセットのノックインはできたが、カセット交換ができなかった。カセット交換が起きるとPuromycin耐性遺伝子がPGKプロモーターにより発現するが、そのプロモーター活性がiPS細胞では低い可能性が考えられた。そこでPGKプロモーターを、iPS細胞で活性が高いことが知られているEF-1αプロモーターと交換したところ、再現性よくカセット交換ができるようになった。現在、カセット交換できたクローンにおいて、Puromycin耐性遺伝子を欠失させ、導入したTCR遺伝子を発現させることができるか、引き続き解析を行っている。 さらにカニクイザルのがんモデルを作出するため、優性変異型p53CT、CDK4、活性化型KRAS(G12V)、テロメラーゼ逆転写酵素TERTの4つの遺伝子をドキシサイクリン誘導性に発現するトランスジェニック(Tg)サルの作製を行い、1頭が出産した。他のTgサルと比較して妊娠効率が低いことから、レンチウイルスベクターを改良し、改良ウイルスを用いてTgサルの作製を行い、さらに1頭が出産した。併行してMHCホモサル由来の腫瘍細胞をMHCヘテロサルに移植し、腫瘍組織に浸潤したT細胞や、腫瘍細胞を繰り返し移植することで、迅速に腫瘍細胞を拒絶するMHCヘテロサルの末梢血中T細胞からTCR遺伝子を単離し、レパートリー解析を行った。現在、高い出現頻度を示すTCR遺伝子をT細胞へ導入する実験を試みている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、がん特異的なTCR遺伝子を、ゲノム編集とカセット交換法を用いて、内在性TCR遺伝子座へノックインするために、まずJurkat細胞を用いて実験を行い、導入したTCRを正しく発現させることに成功した。そこでiPS細胞でも同様に実験を行ったが、薬剤耐性遺伝子カセットのノックインはできたが、カセット交換ができなかった。様々な原因を究明し、プロモーターを交換することにより、再現性よくカセット交換ができるようになったが、研究に遅れが生じている。 さらに4つのがん関連遺伝子をドキシサイクリン誘導性に発現するトランスジェニック(Tg)カニクイザルの作製を行い、1頭が出産した。他のTgサルと比較して妊娠効率が低いことから、レンチウイルスベクターを改良し、改良ウイルスを用いてTgサルの作製を行い、さらに1頭が出産した。このため、通常得られるよりも産仔数が少なく、充分な産仔が得られるまでにはまだ時間がかかると予想される。 併行してMHCホモサル由来の腫瘍細胞をMHCヘテロサルに移植し、腫瘍組織に浸潤したT細胞などからTCR遺伝子を単離し、レパートリー解析を行い、高い出現頻度を示すTCR遺伝子を同定することができた。これらのTCR遺伝子をT細胞へ導入する実験を試みているが、効率よく遺伝子を導入することが困難であり、方法の改善をはかるのに時間がかかったため、やや研究に遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
1)iPS細胞でも、プロモーターの交換により、再現性よくカセット交換ができるようになったことから、カセット交換できたクローンにおいて、内在性TCRβ遺伝子座へノックインされたTCR遺伝子を発現させることができるか確認する。具体的には、iPS細胞を、T細胞分化を誘導するNotchリガンドDLL1を発現したOP9/DLL1細胞の上で培養し、さらに抗CD3抗体で刺激することでCD8陽性の成熟細胞傷害性T細胞へと分化誘導する。こうしてできた成熟T細胞のがん抗原反応性と細胞傷害活性を検討する。 2)カニクイザルのがんモデル作製では、これまでに2頭の産仔が得られたが、引き続き充分な産仔数が得られるまで作製を続けるとともに、産出されたサルには適切な時期(1歳半から2歳頃を予定)にプログラムポンプを埋込み、ドキシサイクリンの投与により腫瘍が発症するか検討を開始する。しかしながら、腫瘍発生には時間がかかると予想されることから、ポンプを埋め込む前から、生検した皮膚組織等を培養し、ドキシサイクリンにより腫瘍化しないか検討する。 3)MHCホモ腫瘍細胞のMHCヘテロサルへの移植実験で、腫瘍組織に浸潤したT細胞などで高い出現頻度を示すTCR遺伝子については、T細胞へ効率よく遺伝子を導入する方法が確立できたため、T細胞で発現させ、MHCホモ腫瘍細胞に対する反応性や細胞傷害活性を検討する。
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Causes of Carryover |
今年度は、ゲノム編集とカセット交換法を用いて、がん抗原特異的TCRα/β遺伝子をiPS細胞の内在性TCRβ遺伝子座へ効率よくノックインすることと、TCR-ノックインiPS細胞が作製できれば、それをT細胞へ分化誘導し、成熟T細胞のがん抗原反応性と細胞傷害活性を検討する計画であった。 しかしiPS細胞ではT細胞へ分化誘導しないとTCRが発現しないので、まず実験系を確立するために、当初計画していなかったヒトT細胞性白血病由来のJurkat細胞を用いてノックインを試みた。薬剤耐性遺伝子カセットがノックインされたクローンが得られ、カセット交換法によりTCRα/β遺伝子が交換でき、FLPeによりTCRα/β遺伝子の発現が確認できた。以上の結果をふまえiPS細胞へのノックインを開始し、カセット交換以降の実験を引き続き次年度に実施することになったため。
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