Outline of Annual Research Achievements |
舌・頬・口唇などの口腔軟組織の健全な機能は,歯列咬合,構音機能,摂食嚥下機能の育成にとって重要である.ダウン症候群においては,上顎の劣成長が,口唇や舌の弛緩など軟組織の機能異常と相互に影響して,歯列咬合不正,構音・咀嚼機能障害につながると考えられるがそのメカニズムの詳細は不明である.本年度においては,舌突出や口唇弛緩に対して筋機能訓練を行い,舌圧・口唇圧を計測・評価したダウン症候群において,歯列咬合矯正治療との関連性を解析した. 方法として、ダウン症候群症例において,筋機能訓練を行った19名(歯科矯正治療中15名,訓練のみ4名)を実験群とし,筋機能訓練の協力が得られず舌圧・口唇圧の評価のみ行えた4名を対照群とした.舌圧・口唇圧は,それぞれJMS舌圧測定器(株式会社ジェイ・エム・エス)および歯科用口唇筋力固定装置(株式会社松風)を用いて行い,筋機能訓練および矯正治療の舌圧・口唇圧の変化との関連を調べた.また,3D画像撮影解析装置ベクトラ(株式会社インテグラル)を用いて舌形態を定量化した.なお,データは匿名化されている情報を用いて行った.下記の結果を得た。 1.筋機能療法の有無による比較から,舌圧および口唇圧ともに訓練による有意な効果は認められなかった.2.口唇圧は舌圧と比較して,訓練に加えて矯正治療に伴うことによる機能の向上を認めた.3.筋機能が改善しにくい症例に,巨舌が疑われる症例が含まれた. 以上の結果より、1.ダウン症において不正咬合の治療は,筋機能訓練と相互に働いて口唇圧の改善のために有効であると考えられた.2.矯正治療や筋機能訓練,あるいはその組み合わせにおいても舌圧・口唇圧が改善しないケースがあることから,ダウン症における舌圧・口唇圧に対する,舌形態など他の要因の関与が示唆された.
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