2019 Fiscal Year Research-status Report
災害医療・健康危機管理における法的および制度的枠組みに関する国際比較研究
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18K09967
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
冨尾 淳 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 講師 (10569510)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 智晶 青山学院大学, 法学部, 准教授 (20554463)
佐藤 元 国立保健医療科学院, その他部局等, 部長 (70272424)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 健康危機管理 / 国際比較 / 法令 / 制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、前年度に引き続き主要先進国の災害対応、健康危機管理を規定する法令や制度等について情報収集・整理し比較検討を行なった。また、国際保健規則(IHR)の13項目のコアキャパシティを軸に法制度の評価指標案を検討し、特に、要員、保健医療サービス提供体制、事後評価の枠組み、の各項目について主要国の法制度の動向を検討した。 医療機関等における危機管理要員の確保については、日本では法令上の規定はない。一方で米国は、法令による規定はないものの危機管理部門の設置は連邦助成プログラムの要件となっており、人材育成システム、資格制度も確立されていた。英国ではCivil Contingency Act 2004 (CCA 2004)、Health and Social Care Act 2012により医療機関の危機管理が規定され、国民保健サービス(NHS)の医療機関では実務担当専従スタッフが配置され、担当者の資格要件も全国職務基準(NOS)により規定されていた。 緊急事態への対応後の事後評価の枠組みとして、after-action review(AAR)を実施・報告することがIHRにより推奨されている。日本を含めAARの実施が制度化されている国は少ないが、米国では災害訓練等でのAARの実施は連邦政府の助成要件となっており、保健福祉省にはAARとそれに伴う改善計画の実施を担う専門部門(Exercises, Evaluations & After Actions)が設置されていた。また、過去のAAR等がHomeland Security Digital Library (HSDL)に収載されデータベース化されていた。IHRに基づく推奨により、今後各国でAARの制度化の動きも期待されるが、対象事象や実施者の選定、報告・公表の基準など、各国の状況を踏まえた検討が必要であることも明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度までの予定としては、各国の法令とIHR、仙台防災枠組などの関連資料のレビューを行い、 必要な要件を「評価指標案」として作成することであったが、IHRコアキャパシティの13項目を軸に評価指標案を確定しつつある。ただし、現在、新型コロナウイルス感染症への各国の対応から、国際機関および各国の法令・制度上の新たな課題も明らかになってきているため、状況を把握しながら最終的な評価指標の確定作業を進めている。 米国、欧州の危機管理担当者、専門家の訪問は新型コロナウイルス感染症の影響により一部キャンセルとなったが、メールのやりとり等を通じて最低限の情報収集・意見交換が実施できた。新たな研究協力関係も構築中であり、研究成果の情報提供を行う専用ウェブサイトの構築準備を行なっている。以上から、概ね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、各国の災害・健康危機管理関連法令の評価指標を確定し、政策の評価(Policy Surveillanceの実施)の実施、対策強化と国際協調に向けた法的、制度的枠組みのあり方についての提言であり、これに向けた推進方策は以下の通りである。1)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応を踏まえた評価指標の確定、2)評価項目をもとに、主要国の法令の評価・比較分析を行う。なお、2)については、主要国のCOVID-19対応において関係法令・制度がどのように機能し、どのような課題が明らかになったか、またどのような法制度の変化がみられたかについてケーススタディを実施する予定で準備を進めている。 分析結果等について、日本語・英語により情報提供を行うウェブサイトを開設し、研究期間終了後も継続して知見の収集・提供が可能となる仕組みを構築する。なお、研究結果については、ワークショップ(必要に応じてオンライン形式)で情報公開を行う予定である。 本研究は、国内外の危機管理関係者との協力関係を構築・維持しながら研究を推進することが重要であるが、現状では、渡航制限のため、直接訪問しての情報収集・意見交換が難しいという課題がある。当面はオンラインでのやりとりを活用し、可能な限り情報収集を続ける予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主な理由は、2-3月に予定していた海外機関の訪問が新型コロナウイルス感染症の影響により延期となったこと、米国政府機関、研究機関の訪問を主に他の経費にて実施したことである。次年度は、ウェブサイトの構築、学術論文等の成果物の校正費用の他、成果報告のための学会発表、また、渡航が可能になり次第、海外の協力機関(世界保健機関(WHO)、米国政府機関(CDC、保健省等)、英国公衆衛生庁など)の訪問旅費に使用する計画である。
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