2018 Fiscal Year Research-status Report
量子化学/分子動力学計算によるDNA損傷の分子解離確率論的計算モデルの構築
Project/Area Number |
18K11650
|
Research Institution | National Institute of Technology, Toyama College |
Principal Investigator |
阿蘇 司 富山高等専門学校, その他部局等, 教授 (30290737)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
原 正憲 富山大学, 研究推進機構 水素同位体科学研究センター, 准教授 (00334714)
藤原 進 京都工芸繊維大学, 材料化学系, 教授 (30280598)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | DNA / Geant4 / モンテカルロシミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
放射線が生体細胞へ与える影響を明らかにするために、モンテカルロシミュレーションを用いたDNA損傷の計算モデルを立案し、その有用性を検証することを目的とする。 今年度は、Geant4-DNAを用いたシミュレーション基盤を構築し、水中での放射線照射における直接作用の影響について計算を行った。開発したシミュレーション基盤は、放射線がDNAに与える直接的なエネルギー量と、水の放射化学に基づく活性種の発生及び時間的な拡散と再結合を計算することができる。更にプロテインデータバンクが提供する分子構造を読み込み計算を行うことができる。開発したシミュレーション基盤については、長岡技術科学大学が編纂するTransactions on GIGAKU e-journalに査読を経て論文掲載が決定している。 開発したシミュレーション基盤を用いて、電子線発生に伴うDNAの直接作用の影響を調査した。直接作用では、電子線の電磁相互作用によりDNA構成分子が受けるエネルギー付与が要因となる。そこで、DNA構成原子の有効体積範囲内においてエネルギー付与量を積算し、ある閾値を超えた場合に鎖切断が起きると仮定した。有効体積の範囲とエネルギー閾値を変更し、一本鎖切断(SSB)ならびに二本鎖切断(DSB)の発生確率の変動を調べた。基準設定として、原子のファンデルワールス半径と水素共有結合エネルギーを、それぞれ有効体積とエネルギー閾値に用い、いずれかを±10%程変動させた場合にSSBとDSB発生数の変化を求めた。結果としてSSBならびにDSBの数が、基準設定に比較して30%程度、変化することが分かった。 活性種によるDNA損傷の寄与については、分担者を含む他機関の複数の研究者達と、分子動力学計算手法や方法論を研究会で情報共有しており、必要な計算環境の整備とともに次年度に向けた準備が完了した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Geant4-DNAを用いたシミュレーション開発の第一段階が終了している。また、研究分担者ならびに他機関の研究者との情報共有により、分子レベルでの相互作用について、分子動力学ならびに実験的な視点の両面において詳細な情報を得ることができている。収集した情報を元に、次年度の計画立案を具体化することができていることから、概ね順調に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究により、直接作用による効果が、仮定している鎖切断の条件設定により変動することを確認した。しかし、多くの実験では、水中でのDNA損傷を活性種によるDNA損傷の影響を分離せずに調べており、その影響を見積もることが必要である。そこで次年度は、今年度の成果を元にして、次の3つの点について調査と開発を行う。(1)分子動力学計算を用いて特定のDNA構成分子に活性種が集積する等の特性を評価する。(2)分子間反応の活性化エネルギーについて計算を行い、活性種とDNA構成分子との反応特性を評価する。これらの評価結果に基づいて、活性種の種類・数量と鎖切断が生じる有効体積とをパラメタとする確率分布関数を作成する。(3)得られた確率分布関数を開発しているシミュレーションに組み込むインターフェイスを平行して開発し、直接作用と間接作用の双方を含むシミュレーション計算を行えるように研究を推進する。これらの調査・開発により、直接作用と間接作用の双方を定量的に計算して分析することが可能となる。 再来年度は、開発してシミュレーションと文献等の実験値を比較して、得られた確率分布関数の改良を行い、最終結果を論文としてまとめる予定である。
|
Causes of Carryover |
今年度に当初予定していた量子化学の反応を計算するソフトウェアならびに計算機の購入は、代わりにクラウド環境の計算機資源とそのソフトウェアライセンスを3年間契約とすることにより、当初予定よりも安価に契約することができた。一方で研究を推進するための シミュレーション開発において、量子化学計算を用いた研究の重要性が高く、その計算手法における高度な専門性が必要であることから、次年度から新たに名古屋大学の平野祥之准教授を研究分担者に迎えて研究遂行の強化を図ることにした。次年度は、研究に必要な計算ソフトウェアが利用できるようになっていること、そして、シミュレーションの基盤部分の開発が予定通り進んだことから、様々な条件での計算結果を得ることができる。これらの進展状況を踏まえ、平野准教授への量子化学計算を進めるための分担研究費の配分と研究打合せのための旅費、ならびに今年度開発したシミュレーションを実行して得られた結果を国内外で発表するための旅費として主に使用する計画である。
|
Research Products
(2 results)