2019 Fiscal Year Research-status Report
市場開放下の韓国における農村社会の再編:トルニョク経営体の展開に関する実証的研究
Project/Area Number |
18K11816
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
深川 博史 九州大学, 経済学研究院, 教授 (30199153)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高安 雄一 大東文化大学, 経済学部, 教授 (20463820)
水野 敦子 九州大学, 経済学研究院, 准教授 (10647358)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 韓国 / 農村社会 / トルニョク / 共同 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の2年目においては、研究分担者および海外研究協力者とともに、全羅北道の2つのトルニョク経営体を訪問し、聞き取り調査を行った。一つ目は、コメに加えて水田大豆・麦類を栽培し、農産物加工も手掛ける営農組合法人。二つ目は、水田大豆の栽培、作業受託、加工・精選事業を行う営農組合法人である。この他に、外国人を雇用して、規模を拡大した水田大豆経営体についても訪問調査を行った。調査から判明したことは、韓国のトルニョク経営体は、成果をあげつつも、当初の構想とは、異なる方向に発展しているということであった。 トルニョク経営体は、加工・流通段階の組織化を中心に成果を示し、生産の共同化で一定の実績をあげたが、農地の共同利用からは程遠い状況にある。高齢零細農との協働も進まず、大農中心の経営体として発展しつつある。調査対象の営農組合法人においては、育苗・防除などの作業を共同で行い、加工・販売も共同で行っていた。農地を共同で所有及び耕作することは行わず、所得増大のための農産物加工・販売などに進出していた。農作業の共同化は、組合員の間では進んでいるが、高齢零細農を含む農作業の共同化は進展していなかった。 トルニョク経営体は、経営費節減や所得向上で成果を示しており、大農については高い所得が魅力となり後継者の確保も可能となっている。しかしながら、トルニョク経営体は、当初の構想とは異なり、大農中心の組織経営体として、在来農村とは、やや遊離した形で、発展しつつあることが確認された。それらの研究調査結果は、単著論文や、海外の専門研究者との共同論文、として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、韓国のトルニョク研究専門家のサポートにより、研究分担者とともに、トルニョク経営体を訪問調査することができた。本研究の目的は、トルニョク経営体の分析を通じて、韓国の農村社会再編の性格を明らかにすることであったが、調査を通じて、トルニョク経営体による社会統合には限界のあることが明らかになった。具体的には、トルニョク経営体が、一部の生産と流通・加工に留まり、農地の共同利用には到達していないこと。また、大経営中心であり、零細経営を巻き込む形の経営体として発展しているのではないことである。 これらのことは先行研究でも一部は指摘されていたが、それに加えて、大経営の発展の内容が明らかになった。トルニョク経営体は従来、稲作を想定して、議論されてきたが、今回の調査では、水田大豆作において加工・精選の発展形態があること、営農受託の形態があることなどが明らかになった。トルニョク経営体の中には、組織的かつ効率的に運営されているところもある。その背景には、当該地域の条件や、経営従事者のリーダーシップなども関係している。これらを把握できたことは本年度の研究成果と言える。 本調査をサポートした海外研究協力者の東国大学校・黄在顕教授については、調査後に日本へ招聘して研究会を開催し、分担者を交えて調査結果について討論を行った。そこで、本年度の成果をまとめるとともに、次年度の調査研究の計画を検討した。 また、トルニョク経営体の専門家である全北大学校・趙佳鈺教授との討論を経て、共同論文をまとめ、発表できたことは本年度の大きな成果であった。
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Strategy for Future Research Activity |
第2年目の研究では、トルニョク経営体について、当初構想と現状との相違点が明らかになった。その相違点の背景を検討することが第3年目の課題になる。その課題を達成するために、トルニョク経営体への、農村住民の参加状況について、現地でのインタビュー調査を行う予定である。経営体そのものに加えて、経営体の周囲の農村の状況について、調査を行うことになる。現地の研究協力者と準備を進めているが、調査の実施に向けて、日韓関係や、新型コロナウィルスの感染拡大など、制約要因が少なくない。困難が出てきた際には、可能な範囲で実態調査を行い、また、文献調査や、インターネット・電話による聞き取り調査への変更を検討したい。さらに、調査とは別に、最終年度へ向けて、研究成果のとりまとめの準備を進めていく。
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Causes of Carryover |
本来は、年度末に、研究分担者とともに、トルニョク経営体の農村調査を実施する計画であったが、新型コロナウィルスの影響により、訪韓調査が実施困難になり、海外調査に計上していた旅費が残った。 2020年度は、新型コロナウィルスの収束状況を見ながら、2019年度に予定した農村調査を実施する計画である。
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