2018 Fiscal Year Research-status Report
"Alternative Fiction "and the "Co-Prosperity"in Wartime Japan: Media Mix Research
Project/Area Number |
18K11833
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Research Institution | International Research Center for Japanese Studies |
Principal Investigator |
大塚 英志 国際日本文化研究センター, 研究部, 教授 (20441355)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | メディアミックス / 文化工作 / 翼賛一家 / 大政翼賛会 / 手塚治虫 / メディア理論 / 参加型ファシズム / 市川綱二 |
Outline of Annual Research Achievements |
調査及び資料収集は以下の3点を中心に行った。①大政翼賛会主導のメディアミックス「翼賛一家」の国内、及び「外地」への広がりについて、その展開を裏付ける資料収集を日本国内及び中国国家図書館(北京)等に於いて。②上海を中心とした、文化工作と一体化した映画を軸とする多メディア展開について。③旧満州、北京、上海で活動した日本人まんが家等のメディア関係者の概要について。①については戦時下中国・台湾で刊行された日本語雑誌・新聞を中心に作品掲載の状況、ラジオ放送の有無、広告による多メディア展開の商品がどの程度認知されていたかの概要、及び既に調査の進行していた日本国内の内、まんが以外の領域での展開を裏付ける資料の充実を目的に行った。また手塚治虫の関与について検証するための周辺資料を調査した。②については戦時下の外地でのメディアミックスは文化工作としての側面が強いため、ケーススタディとして東宝の映画プロデューサー・松崎啓次が原作の映画「上海の月」に定め、周辺の資料を中国国家図書館、国内、及び映画史家・牧野守氏が日本国内に残したコレクション等の調査を行った。③については外地、特に中国での文化工作に関与したまんが家たちの顔ぶれ及び概要を掴むことを中心的な調査対象として、戦時下上海で活動した可東みの助や北京で活動したまんが家たちの所在を外地新聞及び雑誌の調査によって確認した。また、戦時下、メディアミックスの前提となる、映画及び広告を中心に精緻化したメディア理論について文献の調査・収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
理由は3点挙げられる。①素人を動員する、参加型メディアミックスである「翼賛一家」について手塚は自身の関与を主張していた。手塚が言及した作品こそ発見できなかったが、『新宝島』の原作者となる酒井七馬の関与、及び、終戦直前の手塚の習作「勝利の日まで」が「翼賛一家」のキャラクターと舞台の町内を共有する一種の二次創作であることを明らかにできたとともに、同作の「翼賛一家」以外のソースとしてのアニメーション、文化映画、喜劇映画との関係性も明らかにした。それを通して、参加型動員として設計された「翼賛一家」に「参加」した「素人」のケーススタディを手塚を具体例に把握できた。また、その素人参加が人形劇の領域で拡大していたことも含め、メディアミックスがまんがや書籍、音楽だけでなく、小説、舞台、落語、浪曲、アマチュア演劇、川柳など多様な広がりであったことを確認できた。②文化工作機関としての東宝の姿を明らかにする資料群といえる「市川文書」を発掘した。上海での文化工作については、調査の目的であった「上海の月」に加えて、東宝及び軍が戦時下上海で中国側のプロデューサーを立て中国映画を偽装した「茶花女」の制作過程について、日中間及び軍とのやりとりの書簡や会計の細部を記録した東宝の事務方・市川綱二の保存していた資料を牧野コレクションから発見した。さらにこれを補完する、市川の残した東宝の前身P.C.L時代における満州映画・芥川光蔵とのやりとりなどを別途入手した。③一次的成果として「翼賛一家」の国内展開の全体像、及び、「外地」での展開の概要について、及び、戦時下のメディア理論と文化工作の関係についての『大政翼賛会のメディアミックス』(平凡社)、『手塚治虫と戦時下のメディア理論』(星海社)を刊行。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の予定であるが、①「翼賛一家」に関しては更に国内外の資料の調査を進める。外地で、未調査の韓国について概要を掴む。また著作権の問題で画像のデータベース化は難しいが、資料の書誌データの整理を行う。②新発見資料、市川綱二文書を精査し、戦時下東宝の文化工作を「茶花女」をケーススタディに検証する準備をする。そのことで国策文化工作機関としての東宝のあり方を掴む。③「外地」で文化工作に関与したまんが家たちの調査を進め、「文化工作者」としてのまんが家のあり方を明らかにする、の3点を中心に行っていきたい。特に、②③については、これまでも行ってきた中国のまんが及びアニメーション関係者との協力・連携関係を密にしていく必要がある。それらを通じて今年度の成果を踏まえつつ、戦時下においてメディア領域、及び内地・外地を越えた多メディア・多文化間のメディア展開がいかに文化工作のツールとして戦時下、整備されたのかを明らかにし、植民地統治の技術としてのメディアミックスのあり方を明らかにする。同時に、そのようにして形成された戦時下の参加型ファシズム装置としてのメディアミックスがそこに関与した人々の手でいかに戦後に持ち越され「メディアミックス」の名称と出会うのかを明らかにしたい。そのことでメディア産業の単なるマーケティング理論と思われてきた「メディアミックス」の枠組が、現在のクールジャパン政策の原型となっている可能性を検証するとともに、SNSを中心に参加型メディアミックスが隆盛する「現在」を考える材料を社会に提供することを目指す。
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Causes of Carryover |
想定外の国内での「市川文書」の発見、及び、著作二作での成果の一時的な公表を優先したため、予定していた北京以外の地域(中国及び台湾)での調査が行えなかった。韓国に関する調査も進めなくてはならない。また、入手した資料の捕捉及び東アジアの多文化圏でのメディアミックス、メディア展開の現状と照らし合わせるための海外調査の必要性は増しており、令和元年度に海外を含む調査をより充実してとり行いたい。そのために予算の繰り越し分の使用を充当する。
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