2019 Fiscal Year Research-status Report
"Alternative Fiction "and the "Co-Prosperity"in Wartime Japan: Media Mix Research
Project/Area Number |
18K11833
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Research Institution | International Research Center for Japanese Studies |
Principal Investigator |
大塚 英志 国際日本文化研究センター, 研究部, 教授 (20441355)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | メディアミックス / 文化工作 / 素人 / 多メディア展開 / 翼賛一家 / 編集 / キャラクター / メディア理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
戦時下、大政翼賛会が近衛新体制に呼応し主導したメディアミックス企画「翼賛一家」が、いわゆる「外地」各地において如何に展開したか、昨年に引き現地調査を、邦字新聞を中心に北京・上海・ソウルで行なった。 上海調査では『東亜新報』華北版に新日本漫画協会による「合作」を含む寄稿が内地版の転載でなく「外地」向け新作としてなされていたこと、ソウルでは「内地」での新日本漫画協会結成を受けての「翼賛一家」の企画立案という流れを踏まえ朝鮮漫画家協会が結成され「明朗愛国班」と題された朝鮮家族と「内地人」家族の二家族のキャラクターがデザインされ、単に、「翼賛一家」のキャラクター転用ではなく、企画スキームそのものがローカライズされた事実が確認できた。既に予備調査を終えた台湾を含め、その展開は「外地」でも均一でなく、その自由度や結びつく政策も差異が見られた。内地においては「翼賛一家」はプロパガンダとしては隣組を軸にする生活の新体制化であったが、外地では「翼賛一家」というキャラクターの多メディア展開のスキームそのものを援用していることが見えてきた。 また、戦後、「メディアミックス」という造語を作り出す電通関係者の一部は戦時下の「報道技術研究会」とも重複することを踏まえ、同会の機関紙等の資料の調査・入手を行い、多メディア展開がどのように戦時下、理論化されたかを問題化した。そのことで戦後メディアミックスの戦時下との連続性が問題化できると思われる。一方、戦時下メディアミックスの特徴である「参加型」という特性を踏まえ、戦時用語としての「素人」を創作的行為に動員するインフラである、投稿情報誌や創作入門記事・書籍の新体制以前/以降の変化についても概要を調査した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1資料調査 今年度は資料調査で大きく進展があった。重要なケーススタディである「翼賛一家」の「外地」での展開については、今年度、上海、ソウルの海外調査で華北地方での展開、及び、朝鮮に於いてはローカライズ版が制作され、小規模とはいえ多メディア展開がなされていた資料の発掘が行なえた。このことで「翼賛一家」が「内地」だけでなく台湾・上海・華北・朝鮮と「外地」での展開の具体相がより明確に確認できた。また、従来、まんが史の側から個別の研究対象となっていた阪本牙城ら外地で活動したまんが家たちについても足跡の確認が行なえ、多メディアの連結を理論化した報道技術研究会の資料調査、そして文化工作において理論と実践をつなぐ「画工」という属性に着目、資料入手に努めた。「翼賛一家」国内資料については公開データベースは権利関係上困難だが資料目録の製作に入った。 2成果発信 2019年度は日本デジタルゲーム学会の基調講演「メディアミックスの起源」、第 13 回 SGRA チャイナ・フォーラム 「国際日本学としてのアニメ研究~メディアミックスとキャラクター共有の歴史的展開~」における講演「『翼賛一家』とメディアミックスの日本ファシズム起源」 で成果の概要が発信された。 以上のように「翼賛一家」をケーススタディにメディアミックスと言う視点から戦時下東アジアの文化工作を描き出すという構想を可能にする資料収集は順調に進捗した。成果も、研究の主題にふさわしく半数が海外参加のゲーム学会講演、中国での講演と先端メディア領域や東アジアを含む海外に向けてなされた。 「おおむね」としたのは、コロナの影響で一部国内外の調査が滞っている点である。次年度に見送った長春調査、目録作成のための国内地方図書館での補足調査が可能であることを祈る。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの北京、上海、ソウル、及び国内での調査を踏まえ、「翼賛一家」をケーススタディに戦時下メディアミックスの東アジアにおける展開を描くという当初の構想は変わらない。特に「外地」に於いてはメディア間の横断だけでなく、その展開の諸相をそれぞれの地域の日本統治のあり方、特に「隣組」など新体制運動の展開などを踏まえ「内地」と対比することでローカライズの具体相に注目したい。 また、多メディア展開を理論付けた「報道技術研究会」関連の資料を検証し、戦時下メディアミックスにおける理論と実践の蜜月という問題を考えたい。その際、文化工作の前線で活動したまんが家など固有名のある作者とは別に「投稿」などの形で参画した無名の作者たちと、理論を「実践」の形で主導し、無名の作者たちを動員する役割を果たした阪本牙城、加藤悦郎ら「運動」としてアマチュアの組織化と啓蒙を試みた存在の双方に注目したい。この戦時下のアマチュアは「素人」と呼ばれ、その存在と動員は素人演劇運動などに確認できるが、多様なメディア領域に存在し、彼らを啓蒙し参画させるのが戦時下のメディア動員の肝である。 また「理論」を実践する際の「画工」や「編集」といった職能にも注目が必要である。 この「素人」研究、及び、メディア表現における素人の教育の問題は、戦時下のメディアミックス的動員を「参加型」として機能させたインフラでもある。戦時下まんが創作教育、映画シナリオなどの「投稿」のあり方など、「素人」研究は本研究の延長にある重要な問題であり、2020年度にはその領域の調査を行いたい。 本研究はもともと自身がメディアミックスの不用意な実践者であった反省を踏まえたものだが、ゲーム学会や中国での講演の反響にwebでの「応用」への期待が含まれていることで、改めて、戦時下メディアミックス研究を介してその政治的危うさに警鐘を鳴らしたい。
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Causes of Carryover |
資料整理のアルバイトを一部、次年度に見送りその謝金が残金となった。 コロナが収束し調査環境が許せば未だ全貌の見えない旧満州の現地調査、および、日本国内の地方紙の調査、資料購入、資料整理に用いたい。
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