2019 Fiscal Year Research-status Report
The image of the Uranian Venus and its (trans-)formation in nineteenth century British Literature
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18K12326
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
木谷 厳 帝京大学, 教育学部, 准教授 (30639571)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | P・B・シェリー / 19世紀の英詩 / 天上のヴィーナス / 観念的エロス / 理想主義 / 懐疑主義 / 齋藤勇 / ポール・ド・マン |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度同様、イギリスのロマン派詩人P・B・シェリーの「感性の詩学」という、前回採択された研究課題からのテーマを引き継ぎ、詩中に描かれる「天上のヴィーナス」(聖愛のシンボル)のイメージとその表象がもたらす観念的エロス(知性的エロティシズム)の概念が、後世の唯美主義的な系譜に連なる詩人(ポー、ロセッティら)に受け継がれているという仮説をもとに、とくにヴィクトリア朝初期から20世紀初頭までの間、このヴィーナスのイメージ表象がどのように変遷したかを辿るための基礎調査を進めた。 その過程において、20世紀初頭の日本におけるイギリス・ロマン派研究の第一人者である齋藤勇が遺した未発表ノートの研究を通じて、19世紀末イギリスの批評家たちが共有していたある特徴的な言説形成を確認した。その言説とは、シェリーの詩学における理想主義(idealism)がもたらす希望と懐疑主義(scepticism)がもたらす現実(諦念あるいは絶望)の相克のそれである。これは後に20世紀のシェリー研究において語り尽くされたかに見えるテーマだが、本研究の独自性としては、シェリーの詩学において表裏一体をなすこの二つの極を、「天上のヴィーナス」(聖愛に基づく観念的な美)ならびに「地上のヴィーナス」(性愛に基づく五感的な美)のイメージと共に類比的に考察することで、シェリー以来の「天上のヴィーナス」の系譜と、19世紀末に確立された希望と諦念のあいだを往来するシェリー像の形成にいかなるつながりが見出せるか、その手掛かりを探った。 上記の試みの理論的な基盤を構成する「ロマン主義のモダニティ」の概念に関する研究も継続的に進め、シェリーの詩における現代性(モダニティ)をめぐる意識と、天上のヴィーナスの表象や知性的エロティシズムの概念を接続するための研究基礎を固める作業を進めた。その成果の一つとして、ド・マンの共訳書を出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度は、本研究計画遂行の仮定で生じた、3つの副次的な研究を進めた。内容は以下のとおり、① 齋藤勇によるシェリー論のまとめとその核心の紹介、② ポール・ド・マンによる、ロマン主義における歴史性ならびに現代性(モダニティ)をめぐる文学理論書の共訳出版、③ 12月に開催された日本シェリー研究センター全国大会のシンポジウムでの発表(1819年におけるシェリーの懐疑主義的な側面をどのようにとらえるか、という問いをめぐって)である。いずれの研究成果も今後の研究を前進させるための大きな糧となったが、結果として研究課題の根幹をなす、19世紀のイギリス文学における天上のヴィーナス表象の変遷についてまとめる作業(とりわけ19世紀後半についての調査)が年度末まで停滞してしまった。また、2020年2月以降は、新型コロナウィルス流行とそれに伴うさまざまな活動自粛の影響を受けて、資料調査のための移動をはじめ、いくつかの予定が変更・中止を余儀なくされたため、本研究課題の継続は足踏み状態を余儀なくされた。その結果として、2020年度の論文発表に遅れが生じる恐れがあるため、現況において、研究の進捗はやや遅れていると自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に発表した3つの研究成果をもとに、19世紀後半に誕生した、理想と懐疑(諦念)の詩人としてのシェリーという言説形成の(資料的裏付けに基づいた)素描、ド・マンによるロマン主義のモダニティをめぐる批評理論の応用、といった本研究の理論的基盤となる課題を乗り越えつつ、シェリーの「感性の詩学」における「天上のヴィーナス」の表象が、後世のイギリス詩人による表象といかなる関連を持ちうるのか、そのイメージの変遷をめぐる調査を続行する。 さらに、次年度から最終年度にかけて、本研究計画の先にある大きな目標に取り組むための基盤構築作業を進めたい。まず、天上のヴィーナスの表象をめぐり、シェリーと唯美主義的詩人や関連する批評家を貫く射程の先にトマス・ハーディを置くことで、申請者が将来の課題としている、ヴィクトリア朝後期からジョージ王朝時代にかけて起こった、便宜上「新ロマン主義」(Neo Romanticism)と呼ばれる文芸運動(モリス、イェイツ、ハーディ、ハウスマン、E・トマスなど)と「原ロマン主義」(こちらも便宜上の呼称である)とのあいだに存在する、詩をめぐる感性的な繋がりを考察するための足掛かりを得たい。その一環として、今年度は天上のヴィーナスの表象とその変容が、19世紀後半のイギリス文学に内在する「イングランド性」(Englishness)とどのような関係をもちうるのかという問いに関する文献調査を進める予定である。
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Causes of Carryover |
購入を検討していたある物品の費用に充当する予定であったが、学内期限内の購入が間に合わなかったため、次年度にあらためて使用する。
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Research Products
(3 results)