2019 Fiscal Year Research-status Report
フランス・ルネサンス文学における芸術作品の解釈・鑑賞行為の表象
Project/Area Number |
18K12342
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
林 千宏 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 准教授 (80549551)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | レミ・ベロー / 牧歌 / セーヴ / エンブレム / ルネサンス・フランス詩 / 芸術鑑賞 |
Outline of Annual Research Achievements |
2年目の計画としては、初年度に引き続きレミ・ベローの作品『牧歌』の構造とその出版形態との関係を明らかにすることを目的としていた。この問題についての研究結果が、2020年2月出版の『コレスポンダンス 北村卓教授・岩根久教授・和田章男教授退職記念論集』収録の「レミ・ベローの2つの牧歌―『牧歌』(La Bergerie)1565年版および1572年版を通して」である。この論文において、同一作品の2つの版の異同をたどることで、作品がどのように変容していったのかを明らかにし、さらにはこの作品の想定する主たる読者がどのように変化してきているかを論じた。さらに当初の研究では3年目以降に計画していた詩人モーリス・セーヴの作品『デリー』(1544)の研究にも着手し始めており、その成果は2019年5月出版の『表象と文化 XVI』収録の論文「モーリス・セーヴ『デリー』(1544)における塔の表象」となった。この論文ではベローを含むプレイヤッド派の詩人たちが共通して用いる「バベルの塔」のイメージがどのように形成されてきたのかを考察している。海外の研究者との研究交流については、2019年10月にスイスのルネサンス研究者Max Engammare氏を招へいし、研究打ち合わせを行うと同時に、大阪大学にて「図像(イコン)から『図像集(イコネス)』へ ロンサール、ベーズにおける文学的肖像と描かれた肖像」(De l’icon aux icones Le portrait litteraire et le portrait peint chez Ronsard et Beze)と題する講演会を開催し、日瑞仏の研究者間で活発な意見交換が行われた。さらに、日本フランス語フランス文学会秋季全国大会にても講演を行ってもらい、日本におけるルネサンス研究に大いに資する研究交流となったと考えている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年目も初年度同様2本の論文を発表することができ、おおむね順調に進展していると考える。これら2本の論文もいうまでもなく「フランス・ルネサンス文学における芸術作品の解釈・鑑賞行為の表象」についてのものであり、それぞれの論文でも論じているように、レミ・ベローの『牧歌』およびモーリス・セーヴ『デリー』が印刷本としてどのように機能し、またそれがいかに解釈・鑑賞されうるかという問題を中心として扱っている。 海外の研究者との交流については、先に概要でも述べたように、スイスからカルヴァン研究の第一人者を招へいし、非常に有益な交流を行うことができた。この際には研究代表者のみならず、日本のルネサンス研究者の多くとも交流を行うことができ、日本におけるルネサンス研究に貢献することができたと考えている。一方、2019年度に招へい予定であったものの、健康上の理由により来日がかなわなかった研究者について、2020年4月に再来日を予定していたが、今回はコロナウィルスの感染拡大防止から予定をキャンセルせざるを得ず、昨年度に続いて未だ研究交流が実現していない。今後状況を注視しつつまた海外研究者と連絡を保ちつつ、可能と判断でき次第、研究発表の実施や人の交流を復活させていく予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初の予定では、ベローの作品が影響を受けた同時代のエンブレム本との関係を考察し,16世紀前半の詩人マロ,セーヴからプレイヤッド派の詩人たちの作品を経て,いかにして16世紀後半の詩人デュ・バルタスの『聖週間』へと繋がっていくのかを明らかにすることを予定としている。すでに初年度よりモーリス・セーヴの作品との関係については継続的に論じてきているが、今年度はさらにベローと交流のあったプレイヤッド派の詩人で、同時代における詩人の王とも評されたピエール・ド・ロンサールの作品との関係も視野に入れつつ研究を進めていきたい。このロンサールについて、彼が自らの総合作品集を出版する際にその『恋愛詩集』に注釈を付したのが他ならぬベローであった。ベローの『牧歌』はイタリアのサンナザーロの『アルカディア』やコロンナの『ポリフィロの夢』に加え、この時の経験が生かされているのではないかというのが研究代表者の推測するところであるが、より厳密にロンサールの作品構成を検討することによって、その影響関係を明らかにしたい。またこれらの作品が16世紀後半の詩人デュ・バルタスらの作品を経て、17世紀以降の文学そしてその印刷本にどのような痕跡をとどめているのかを明らかにしていく予定である。さらにはコロナウィルス感染の状況を注視しつつ、可能となり次第海外からの研究者を招へいし、また自身もヨーロッパへ赴き調査研究活動、および研究発表を進めたく思っている。
|
Causes of Carryover |
初年度さらに2年目に予定していたフランスへの調査研究であるが、本務校業務さらには海外研究者の招へいのため、必要な時間を確保することができず、申請していた使用額に届かなかった。さらに3年目はコロナウィルスの感染拡大により、すでに海外からの研究者招へいを一件見合わせており、また研究代表者自身の渡欧も果たして可能となるのか、いまだ状況を予測するのが極めて難しい。加えて購入を予定している書籍についても、昨年度の本務校での耐震工事の遅れに伴い十分に購入することができなかった。耐震工事についてはすでに昨年度12月に完了したものの、続く1月から現在に至るまで国際郵便の遅れからどの程度年度内に入手できるのか不明の状況が続いている。このように今年度は様々な不確定要素があるものの、概要や進捗状況でも述べたように、状況を注視しつつ、さらに海外の研究者や出版社との連絡も保ちつつ、さまざまな関係するインフラが復旧したときには速やかに予算を執行できるように準備を進めたいと考えている。
|
Research Products
(3 results)