2023 Fiscal Year Annual Research Report
New angle on the Alpine passes in Roman times: influence of "closed passes" upon local societies under the Principate
Project/Area Number |
18K12540
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
長谷川 敬 慶應義塾大学, 文学部(三田), 准教授 (90781055)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アルプス山脈 / 峠 / 季節労働 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、コロナ禍で実施出来なかったモンジュネーヴル峠と、フランス側麓村落のブリアンソン、そして近隣都市のアンブランとガプの現地調査を実施する予定であったが、家庭の事情により実施を断念し、その代わりに既刊の考古学調査結果ならびに碑文史料の分析に専念することとした。その結果、当初想定していた峠麓村落と近隣都市・村落の間の季節的な人口移動を検出することは出来なかったが、分析過程において大サン・ベルナール峠のスイス側麓、ならびに小サン・ベルナール峠、モンジュネーヴル峠それぞれのフランス側麓の3地点の間に興味深い相違点を検出するに至った。すなわち、帝政前期における大サン・ベルナール峠のスイス側麓の共同体であるCivitas Vallensium(以下CV。首邑:マルティニー)の領域では、二人委員等の高位都市公職就任者に関わる碑文が複数(8例)確認できた。また、モンジュネーヴル峠のフランス側麓の共同体であるMunicipium Brigantiensium(MB 首邑:ブリアンソン)でも、二人委員経験者による墳墓建立を伝える墓碑が確認された。これに対し、小サン・ベルナール峠のフランス側麓共同体であるForum Claudii Ceutronum(FCC 首邑:エム)では、都市公職者の存在を示唆する可能性のある碑文が1例知られるのみである。これは、FCCがCVと同じく属州州都を兼ねること、そして両者が地理的にも近く、気候も類似すること(冬季の峠閉鎖)を考慮すると、特筆に値する。この点を、エムで出土した土器の生産地等の情報と合わせて考察すると、FCCではCVと比較して地方名望家層が経済的に脆弱であり、その背景として、FCCでは峠道交通から得られる利潤が限定的であったこと、さらにその原因として、土器等の供給でも影響力の強かった近隣都市ウィエンナの住民・商人・名望家の介入が考えらえる。
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