2018 Fiscal Year Research-status Report
責任類型に応じた減責制度の展開ー国家賠償責任の場合
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18K12622
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Research Institution | Otaru University of Commerce |
Principal Investigator |
竹村 壮太郎 小樽商科大学, 商学部, 准教授 (00711912)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 国家賠償 / 損害賠償 / 減責 / 不可抗力 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の1年目は、フランス法における行政責任法と減責制度の関係性を探求した。フランス行政責任法においては、行政の損害賠償責任の量を減じる原因、すなわち減責原因として、被害者の過失が挙げられるほか、民事責任と異なり、自然力などの不可抗力、さらには第三者の行為も挙げられる。そのうえ、被害者の過失についても、被害者の主観的な面での非難性が要求され、民事責任と異なり、低年齢の子どもや意識を喪失している被害者の行為は過失とは評価されていない(ただし、その場合は親の過失が問題とされることはある)。日本法においては、しばしば民事責任における減責制度の理解が国家賠償責任制度に流用される。しかしかようなフランス法の動向をめぐる考察は、両責任制度に応じて減責制度の取り扱いが異なるべきとする、新たな視座を提供することができるように考えられる。 そのことを確認したうえで、1年目では、まずは不可抗力をめぐる議論の動向から着目した。そしてそれによると、まず要件面からして民事責任と異なり、行政責任では、一般的に、外部性という条件も不可抗力の要件とされていることが明らかとなった。この要件は、もともと民事責任上では厳格な責任を免責の面でも徹底する機能を担っていた。これが行政責任にも一般的に取り入れられているということは、行政責任においても、少なくとも過失を問わない責任類型については、責任を免れる場面でも厳格な責任が徹底されようとしているものと捉えることができる。この点で、被害者の過失に基本的に主観性が要求されてきたことも、いわゆる危険の引き受けが救済を求める権利の喪失という点から捉えられることも、一貫した説明が可能なように思われる。 ただし、それでも不可抗力に“減責”の効果が持たされていることをどう説明するかという点は、新たな課題として残され、これを究明していくことが2年目の研究の出発点になる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究は、当初の予定より、わずかであるが、遅れて進行している。その理由は、研究内容を補強する必要性が生じたことと、研究方法もまた補強しなければならなかったことによる。 前者について。本研究は行政責任制度に応じた減責制度の形を模索するものであるが、その減責制度がいかに捉えられているかという問題を究明するためには、責任を免れる制度、すなわち免責制度自体がどのように捉えられているかをまずは究明する必要がある。これまでの自身の研究によるならば、民事責任の減責制度の捉え方も、不可抗力論の動向と無関係とは言えなかったからである。その点で1年目は行政責任制度自体の展開といわゆる不可抗力論の研究から進めることとしたのであるが、その不可抗力論自体にも様々な議論があり、それを整理するのに時間を要することとなった。ただそれによって責任を免れる制度自体の捉えられ方が徐々に明らかになってきており、以降の減責制度展開をめぐる研究について、改めて一つの視座を得られたものと考えている。 後者について。当初は公刊されていないフランスの学位論文を一つの参考資料としていく予定であったが、その入手が想定通りには進まなかったため、研究の動き出しに時間を要することになった。ただ入手できていない間にその他の資料で補完を試みたことで、かえって視野が広がったように思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目の研究では、1年目で検討を進めた不可抗力論、そして減責制度の理解が行政責任制度の理解といかに結びついているかを整理していく予定である。より具体的には、不可抗力論や減責制度を議論する論者が、何を行政責任の目的として重要視するかというように、どのような行政責任観を前提に考察を進めているか、という点まで考察の対象を広げることを考えている。そして、減責制度がどのような機能を果たすものと期待されたのか、そのことが減責制度の運用の現状にどのような説明を与えうるのか、を考究していくこととしたい。これまでの文献に加えて、行政責任自体の展開を扱った文献も収集し、整理していくこと必要となる。 可能であれば、日本法の現状も改めて整理し、減責制度の運用についての一定の指針を見出すことも課題としたい。
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Causes of Carryover |
当初より2年目も引き続き文献の収集、整理にあたることを予定していた。既述の通り、2年目はフランスの行政責任制度の自体の展開を考察の対象に含めていくため、減責制度自体とは厳密には関連しない文献でも参照していかなければならない。次年度使用額はわずかであるが、新たな文献の収集のために利用させていただきたいと考えている。
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