2018 Fiscal Year Research-status Report
「動態的な著作権の制限規定」のすすめ~オーストラリア著作権法からの示唆
Project/Area Number |
18K12691
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
佐藤 豊 山形大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (40528270)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 著作権 / 著作権の制限 / 制限規定 / 動態的な著作権の制限規定 / 権利制限 / フェアディーリング / フェアユース |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、本研究の前提となる仮説の裏付けの作業を行った。 本研究が前提とする仮説は以下の通りである。すなわち、豪州著作権法の著作権の制限に関する規定が、多数の個別列挙規定と複数のフェアディーリング規定にくわえ、これらの規定では捕捉しきれない行為類型の一部につき、「受け皿的な規定」(豪州著作権法200AB条)を有しており、新たに著作権の制限が必要となった場合であっても、法改正を行わずに「受け皿的な規定」で対応可能である。豪州は、著作権の制限を義務付ける「視覚障害者等の発行された著作物へのアクセスを促進するためのマラケシュ条約」(以下、「マラケシュ条約」という)への加入に際し、既存の個別列挙規定やフェアディーリング規定のみでは条約対応が不可能であったところ、「受け皿的な規定」の適用が可能であるとして条約への早期加入を果たした。ところが、その後豪州では、マラケシュ条約への対応に特化した法改正が行われた。この動きは、「受け皿的な規定」で権利制限の対象となる余地を設けておくことで、個別の政策課題にとりあえず対応し、その後、個別のより具体的な規定を設けることで、行為者の予測可能性を向上させるという、「動態的な著作権の制限規定」が豪州で機能し始めていることを表すものであるということである。 裏付けの作業としては、まず、「受け皿的な規定」自体の導入の経緯を調査した。その結果、豪州と米国が2004年に締結した自由貿易協定(以下、「豪米FTA」という。)の知的財産権に関する条項により著作権の保護水準の強化が義務付けられたことから、バランスを図るために権利制限規定の拡充が必要との指摘がなされ、米国同様の開放的な権利制限規定であるフェアユースの導入が試みられたものの、多数の個別の制限規定や複数のフェアディーリング規定に追加する形で、受け皿的な規定として200AB条が追加されたことが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の前半には、豪州著作権法200AB条の導入過程を調査するため、200AB条の立法資料を丹念に調査した。その結果、200AB条は豪州においても必ずしも理想の立法のかたちとして理解されているわけではなく、あくまで米国のフェアユースに相当する規定を導入しようとする過程の産物であったことが判明した。この調査の過程で発見した文献(Kimberlee Weatherall, The Australia-US free trade agreement's impact on Australia's copyright trade policy, 5 Australian Journal of International Affairs 69(2015), 538-558)からは、本年度の後半に行う調査の示唆を得た。本年度の後半には、そうした当初の立法の動機に2004年の豪米FTAの知的財産権に関する条項への対応により著作権の保護水準の強化が図られたこととのバランスを図るべきとの主張があったとの上記文献の示唆を受け、豪米FTAの知的財産権に関する条項と両国のそれへの対応を調査した。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度も、当初計画に沿って研究を遂行することとしている。
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Causes of Carryover |
所属先より支給される研究費が、赴任初年度であったため通常よりも多く支給されたため、本研究に必要な書籍を当該研究費より支出したことや、当初の予想よりも本年度に必要となる書籍が少なかったことから、当初の想定よりも本研究費からの支出が抑えられた。 次年度は所属先より支給される研究費が減額されることにくわえ、研究の進展により本年度に比して更に必要となる書籍や旅費に充当するための費用が増えることが予想されるため、次年度使用額をそうした費用に充てることとしている。
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