2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K12720
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
毛利 亜樹 筑波大学, 人文社会系, 助教 (00580755)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 日中の紛争管理 / 日中関係改善 / 米中関係悪化 / 日中関係における米国要因 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、本研究申請後に顕在化した米中対立という国際情勢の変化を本研究の理論にどのように取り込むかの検討を行ったため、当初研究計画の変更が必要になり、論文の公開という形では研究成果をあげられなかった。しかし、韓国で行われた海洋問題の有識者セミナーで、日本外交が日中二国間による対中関係の管理だけでなく、多国間外交による対中関係の管理を追求しているという本研究の議論の一端を発表する機会を得た。 2019年度は、秋までに米中関係要因の追加調査に区切りをつけ、併せて執筆中の英語論文の脱稿、公開に向け取り組む。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2018年度の研究では国際情勢の変化によって当初計画にいくつかの変更が生じた。本研究の理論的枠組みは修正を要するのかどうかの検討作業が生じ、このため当初予定の東南アジアではなく、2年目に予定していた中国での調査を行った。これらの新たな作業を英語論文にまとめる努力を行い、英文校正は行ったが、2018年度中に公開するには至らなかった。他方で、日中の政策当局者や有識者への聞き取りにより、本研究の理論構築に役立つ情報を収集できた。 本研究申請後の2017年末から2018年度にかけて顕在化した米中対立は、本研究遂行にとり極めて重要な情勢変化である。申請当時は、オバマ政権期の比較的安定した米中関係を前提とした日中関係を分析する予定であったが、トランプ政権のもとで米中対立が次第に先鋭化した。そもそも本研究は、日中関係の管理における同盟や地域協力などの第三国要因の検討を問いの1つとしているため、米中対立の顕在化を受けて、日中政策当局の選択は米中関係にどのような影響を受けるのかという問題にまず取り組む必要性を感じた。そこで2018年度は、東南アジアでの聞き取りを先送りし、2年目に予定していた中国での調査を先に行った。聞き取りの結果、2014年から日中双方の政策当局が関係改善にコミットしてきたので米中関係の悪化は日中関係改善の決定要因ではない、という日本側の認識が明らかになった。同時に、米中対立によって生じた日中当局者の考慮や選択の変化を具体的に明らかにし、本研究の理論に取り込む必要があるとの考えに至った。以上の検討に即せば、日中当局者はどのように第三国の支持を得ながら両国関係を管理するのかという本研究の問題設定は、米中対立という新たな情勢でも根本的な修正は必要ないが、米中関係に左右されない日中関係の考慮をどのように理論に包摂するかという課題があると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度も「日中当局者はどのように第三国の支持を得ながら両国関係を管理するのか」という本研究の問題設定に即し、理論的検討と聞き取り調査を連動させて研究を進める。特に、米中関係要因の追加調査の完了に注力し、執筆中の英語論文を脱稿する。 第1に、米中関係要因の追加調査を行う。2018年度の聞き取り調査の結果、「日中当局者がどのように第三国の支持を得ながら両国関係を管理するのか」という本研究の問題設定には、米中関係に左右されない日中関係改善の取り組みをどう説明できるかという課題のあることが判明した。このため、1)2014年からの日中二国間関係の改善と対米関係の考慮は当局者でどのように考えられていたのか、2)近年の米中関係の悪化は日中関係の管理に影響しているのか、の2点について引き続き日中当局者や有識者から聞き取りする。これらは2018年にも日中双方で聞き取りを行い、日中関係の改善は米中関係の悪化とは別の取り組みだという日本側当局者の認識を聞き取れたが、中国側の調査に当局者へのアクセスが難しいという問題があったため、中国側当局の政策考慮に洞察を持つ中国人有識者からの聞き取りを、引き続き蓄積する必要がある。このため、再度中国での調査を行う。併せて、日中当局者の日中関係管理についてのアメリカ側の見解についての洞察を得るため、アメリカ人有識者からの聞き取りもアレンジする。 第2に、東南アジア諸国要因の調査を行う。日中双方の当局者と有識者から、日本の東シナ海・南シナ海の「法の支配」を推進する外交と中国の反応を念頭に、日中関係の管理と両国の対東南アジア諸国外交の考慮の関係づけを聞き取る。第1の米中関係要因の検討の進捗に基づいて、東南アジア諸国での日本の東シナ海・南シナ海の「法の支配」を推進する外交と中国の反応についての評価の聞き取り調査を今年度に行うかどうかを決定する。
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Causes of Carryover |
米中対立の顕在化という国際情勢の変化を受け、当初計画で予定していた東南アジア諸国での調査を先送りし、中国での調査に変更したため、旅費を使い残して差額が生じた。2019年度は再度中国で調査を行うほか、アメリカの有識者からの聞き取りのために渡米を計画する見通しであるため、当該の次年度使用額を含めて全額使用する予定である。
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