2019 Fiscal Year Research-status Report
Qualitative Research on Japan-China stategic rivalry
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18K12720
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
毛利 亜樹 筑波大学, 人文社会系, 助教 (00580755)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 日中関係 / 多国間の戦略的競争 / 理論の再検討 |
Outline of Annual Research Achievements |
調査を予定していた2019年度の秋以降、中国政府による邦人研究者の拘束、新型コロナウィルスの武漢を中心とする中国での流行、続く世界でのパンデミックという大きな国際情勢の変化があり、中国はもとより国内外での聞き取り調査は大きく制約される情勢となった。このため、現地調査を行わず、入手可能な資料によって論文の完成を目指さざるを得なくなった。 しかし、第三国の支持獲得を意識した日中の競争という本研究のテーマに対する学術的関心は、2019年のPacific Review誌で日中のRivarlyの特集が組まれたことで確認できた。Pacific Review誌上に本研究に密接に関連する先行研究が複数発表されていたので、本研究とどのように関連づけ、かつ差別化できるかを検討した。その結果、2つの観察を得た。 第1に、複数国の参加する国家間対立という本研究の想定する理論的枠組みには学術的な支持があることが確認できた。第2に、本研究に最も近い先行研究は東南アジアにおける開発モデルをめぐる日中競争であるが、本研究が申請時に想定していた海洋の国際法をめぐる日中の第三国支持の獲得については未検討のままである。当面の間、中国での研究の安全性の問題と新型コロナウィルス流行の影響は改善されない見込みであるので、昨年度から追求していた現地調査による近年の米中関係、中国の対日関係の変化の反映はひとまず延期し、2010年代に遡り海洋の国際法をめぐる日中の第三国支持の獲得競争に事例を絞ることにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
国際情勢の変化のため、海外渡航して現地調査が実施できない。第1に、2019年秋に中国政府による北海道大学教授の拘束が明らかになり、計画していた中国でのインタビュー調査を控えざるを得なかった。従来の計画では、日中関係改善に動く中国側の考慮や事情を現地にて聞き取り調査をする予定であった。北大教授は解放されたものの、依然として複数の邦人や日本の大学で教鞭をとる中国籍の研究者の拘束が続いている。中国政府は、どのような条件のもとで外国人による研究活動を中国の国家安全保障の問題とするのかを明らかにしていないので、中国での研究の安全が確保されない状態が続いている。そのような状況では、電子メールや電話による中国人識者に対するインタビューも、インタビュイーの安全を考えると控えざるを得ない。第2に、2020年1月に武漢で新型コロナウィルスの感染者が出たことが判明し、中国はもちろん世界に急拡大し、海外渡航そのものが制限される情勢になった。 右2つの状況は長期化しているので、現地調査という研究方法を抜本的に再検討せざるを得なくなった。
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Strategy for Future Research Activity |
日中関係による戦略的競争(Strategic Rivary)理論の再検討を中心的目的に据え、論文の完成を急ぐ。従来の計画では、本研究の申請後に顕在化した米中対立を現地での聞き取り調査にも反映させ、日中関係改善に動く中国側の考慮や事情への理解を深める予定であった。しかし、現地調査による情報をアップデートできない状況が続くと見込まれるので、2010年代に遡って海洋の国際法をめぐる日中の第三国支持の獲得競争の事例に焦点を当て、Rivalryの理論を再検討する。これは本研究申請時の計画であったので、原点回帰である。 Rivalryの理論の問題点の1つは、戦争に至る対立を想定しているところにある。そこで論文では、海洋の国際法をめぐる日中競争が、国際地位、支配の空間、国際規範をめぐり第三国の支持を獲得しようとする複雑な対立であることを示しつつ、戦争に至らない対立の重層化であることを説明する。
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Causes of Carryover |
2019年秋以来、現地調査を行える国際環境ではなくなり、旅費相当部分を使用できなかったため。研究者を含む邦人や日本の大学に所属する中国籍研究者の拘束が明らかになり、現在も、中国に渡航して聞き取り調査を行うことの安全は疑問視されている。また、新型コロナウィルスの感染拡大の影響から、海外渡航は制約された状態が続いている。中国以外の国での聞き取り調査は感染症の世界的流行の収束次第であり、2020年度中に実施可能になるとの見通しも、まだ立っていない。 2020年度は文献資料の購入と英文校正費用の支出は行えると考えているが、感染症の流行次第では、旅費相当部分の支出ができない状況が続く可能性もある。しかし、研究期間を延長できれば調査を行える環境になる可能性はより高まる。本来、本研究は聞き取り調査も含めた実証研究を目指していたので、研究期間の延長も含め、可能な範囲で現地調査の実施を目指したい。
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