2020 Fiscal Year Research-status Report
高温高圧実験による地球形成初期過程における軽元素の探究
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18K13630
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
飯塚 理子 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 客員共同研究員 (80632413)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 高圧地球科学 / 水素 / 水 / 中性子回折 / その場観察 / 地球進化 / 放射光X線 |
Outline of Annual Research Achievements |
鉄を主成分とする地球コアには、複数の軽元素が存在すると考えられている。申請者はこれまでに、有力候補である水素を直接観察できる中性子と大型プレスを組み合わせ、地球の始源物質に見立てた試料に対して高温高圧下での中性子回折測定を行い、鉄に水素が有意に取り込まれることを明らかにした。原始地球の進化過程のさらなる解明には、純鉄ではなく、水と鉄とが酸化還元反応を介して生成した鉄水素化物とケイ酸塩間における複数の軽元素の振る舞いを調べることが重要となる。そこで本研究では、水素と硫黄を含む鉄ー含水ケイ酸塩の多成分系に着目し、放射光X線とパルス中性子線のマルチ量子ビームを用いた高温高圧その場観察から、鉄の水素化に対する硫黄の影響を探索した。 R2年度は、実験の回収試料のケイ酸塩部分の赤外吸収測定を行い、残存する水分を調べた。数ヶ月以上の時間が経過した回収試料では重水素が水素に置換されていたこと、両面研磨して薄片の作成が難しかったため、水分量の決定や鉄水素化物とケイ酸塩間の水素分配についての詳細な考察には至らなかったが、ケイ酸塩に取り込まれた水分はごく微量のppmオーダーであると予想される。含水・無水の試料間で赤外吸収スペクトルのOH伸縮振動バンドの有無の差が明瞭だったことから、含水試料中の水が鉄に有意に取り込まれていたことが裏付けられた。鉄重水素化物FeDx中に取り込まれた水素量xは、温度・圧力が高いほど増加し、本実験の条件下ではx~0.4のmiscibilty gapを超えることなく飽和する傾向が見られた。硫黄を含まない含水試料で水素量は最も多く、共存するFeSが水素を取り込まない上に、鉄の水素化を阻害することが分かった。本結果から、地球進化の初期段階では、水素と硫黄が固体の鉄に優先的に取り込まれた後に、より高温下で溶融した鉄中に他の軽元素が徐々に溶け込んだことが示唆される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究の目標達成率は60-70%程度と自己判断する。COVID-19感染拡大の影響で年度の前半に予定していたほとんどの実験が遂行できなかった上に、10月以降は大学を離れて米国に移住(客員共同研究員に身分を変更)したため、十分な追試実験を行えなかった。今年度は回収試料のSEM分析や赤外吸収測定を行い全ての解析を終えて、オンラインで開催された2つの学会で発表した。現在、論文を投稿中(リバイズ)で、次年度で研究成果をまとめ終える予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は新たな実験は行わず、研究成果のまとめに注力する。これまでに得られたデータからケイ酸塩と鉄水素化物間での水素分配について解析を加える。また、酸素や炭素、ケイ素の分配や鉄との反応機構について考察を深める。放射光X線による鉄ーケイ酸塩の全溶融実験と、中性子回折による固体鉄の水素化のその場観察の結果を結びつけて、原始地球の形成過程とマグマオーシャンからコアへと吐き出された鉄ー軽元素の量について応用的な考察を行う。
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Causes of Carryover |
年度前半の出張(実験)予定が大幅に変更し旅費に増減があったこと、補助事業の目的を達成するための研究の実施(追加(再現)実験の実施や学会参加、論文投稿など)の必要性が生じたため。延長した翌年度では論文投稿料に使用する。
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Research Products
(6 results)